<社説>政府が県提訴へ 和解条項の曲解許されない


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 話し合いで解決する考えなど、はなからなかったのだろう。安倍政権は選挙を念頭に、県民の気持ちに「寄り添う」姿勢を装っていたにすぎない。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡る訴訟の和解に基づく協議会で、菅義偉官房長官は新たな訴訟を22日に起こす方針を翁長雄志知事に伝えた。
 福岡高裁那覇支部は和解勧告で、政府と県が「円満解決」を目指すことを求めた。国地方係争処理委員会も、双方が「真摯(しんし)に協議」することで解決することを促した。
 政府による提訴は福岡高裁那覇支部などの要請に明らかに反する。和解条項をも踏みにじるものであり、断じて容認できない。
 新たな訴訟は、埋め立て承認の取り消し撤回を求めた国土交通相の是正指示に、翁長知事が従わないのは違法だとの確認を求める内容である。
 政府は、訴訟と協議は「車の両輪」とし、提訴した上で協議することは可能との見解を示している。それが「和解協議のもともとの精神」(定塚誠法務省訟務局長)とも強弁している。
 「もともとの精神」とは、福岡高裁那覇支部が和解勧告で提示した「原告と被告は違法確認訴訟判決まで円満解決に向けた協議を行う」との和解案を指すのだろう。
 だがその後、政府と県が合意した和解条項には政府による「違法確認訴訟」は含まれていない。政府の和解破りは明らかである。
 和解条項に明記された訴訟は、是正指示の取り消し訴訟のやり直しだけである。再訴訟についても、あくまで「折り合いがつかなければ」との条件が付されている。
 そもそも訴訟と協議を同時並行で行うことが、円満解決につながるはずがない。
 和解が成立した3月は6月の県議選、7月の参院選を控えた時期である。安倍政権が選挙を強く意識して和解に応じたことは容易に想像がつく。それまでの強権姿勢を隠し、話し合うことで県に歩み寄ったとアピールすることが狙いだったと断じざるを得ない。
 沖縄全戦没者追悼式参列のため、6月に来県した安倍晋三首相は「和解条項に従って誠実に対応していく」と述べていた。安倍首相が言葉に責任を持つならば、新たな提訴はやめるべきだ。和解条項の曲解は許されない。