<社説>ロ、五輪除外見送り 悪弊を断つ絶好機逃す


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 競技力向上のために、禁止薬物を用いるスポーツ界の悪弊を断ち切る絶好機を逃した。五輪の価値と国際オリンピック委員会(IOC)の信頼を揺るがす決定である。

 8月5日に開幕するリオデジャネイロ五輪を前に、IOCは国ぐるみのドーピング問題が発覚したロシアの選手団の出場を全面除外しない決定を下した。
 一方で、IOCは出場の可否判断は、各国際競技連盟(IF)に押し付けた。IFは個別の判断で出場できるロシアの選手を決めねばならない。IOCの丸投げに等しい決定は理解に苦しむ。
 本番まで10日足らずしかない中、IFによる選考は混乱必至だ。欧米を中心にIOCに対し、「責任放棄」「指導力の欠如」との批判が出ているのは当然のことだ。
 ロシアの禁止薬物使用について、世界反ドーピング機関(WADA)が、同国スポーツ省が主導して選手の違反を隠蔽(いんぺい)した事実を突き止めた。その上でロシア選手団のリオ五輪出場禁止を求めていた。
 プーチン大統領は勝利至上主義を強め、国家の威信を懸けてメダル量産を命じた。地元で開催された2014年のソチ五輪は前回大会の金メダル3個の惨敗から13個を獲得するV字復活を遂げた。
 国威発揚が優先され、陸上など夏季五輪の種目でも不正がはびこった。政府機関までドーピングと隠蔽に手を染めた実態はおぞましい。摘発する側の反ドーピング機関と連邦保安庁などが気脈を通じて数え切れない不正を重ねていた。
 ソチ冬季五輪の検査所では陽性反応を示す尿検体が、深夜に検査室の壁に開けた穴を通して陰性の尿とすり替えられた。陽性の検体は大半の競技に及び、意図的な廃棄、虚偽報告、違反隠しの金銭授受もあった。
 国家が導く禁止薬物利用と隠蔽は、スポーツを冒涜(ぼうとく)し、選手の命をも危険にさらす犯罪行為だ。ロシアの選手による潔白の訴えは、もはや証明することが難しい。
 IOCのバッハ会長は「不正が証明されない個人まで連帯責任を負わせていいか」と説明したが、出場禁止に抗ったロシアの手前勝手な主張に屈したように映る。関与していない選手には気の毒だが、IOCは「厳罰主義」を貫くべきだった。
 汚れた体で獲得したメダルには何の価値もない。全ての国と選手がドーピング根絶を誓ってほしい。