<社説>ワクチン被害提訴 因果関係を明らかにせよ


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  子宮頸(けい)がんワクチンの接種後に体の痛みや運動障害などの健康被害を訴える全国の女性が、国と製薬会社に損害賠償を求める集団訴訟を起こした。県内からも3人が参加している。

 症状が出たのはいずれもワクチン接種後であり、原告側は(1)健康被害に因果関係が認められる(2)がん自体の予防効果は実証されていない-と指摘し、厚生労働省が安全性や有効性について必要な調査をせず承認したのは違法だとしている。
 日常生活に支障を来すほどの健康被害を受けた女性の救済はもちろんのこと、ワクチンと健康被害の因果関係も明らかにしてもらいたい。ワクチンの副作用が人にどの程度影響を与えたかを明確にしなければ、国、または製薬会社の責任も問えないからだ。
 ワクチンは子宮頸がんの原因の多くを占めるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防することで、将来のがんを防ぐために開発された。2009年に国内で承認され、10年には公費助成で接種が急速に拡大した。13年4月には小学6年から高校1年を対象に定期接種になった。副作用の被害が相次ぎ、厚労省は2カ月で接種勧奨をやめたが、定期接種の対象からは外していない。
 厚労省によると、今年4月末までに約339万人が接種し、2945人から副作用の報告があった。同省の専門部会は14年にまとめた見解で、注射の痛みなどがきっかけとなって引き起こされた「心身の反応」としている。
 だが他の予防接種などで注射を理由に健康被害を訴えた例があっただろうか。専門的知識がなくとも厚労省の結論に疑問を抱く。
 14年のがん統計で、女性の部位別のがん死亡率を見ると、人口10万人当たりでは大腸の34・6人、肺の32・4人などが多い。子宮は10人、子宮頸部は4・5人にすぎない。さらにワクチンを接種すれば絶対安全というわけでもない。がん予防には接種後も定期検診が必要であり、副作用に関する情報が曖昧なワクチンに頼る必要はないのだ。
 製薬会社はワクチン自体は安全と主張し、裁判は長期化も予想される。厚労省は裁判と並行しながら、ワクチンの安全性に関する研究や治療法の開発などを進めてもらいたい。被害が出ている中、承認し、接種を勧奨した厚労省は責任を持って対策に当たるべきだ。