<社説>陛下の「お気持ち」 生前退位認め議論深めよ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 日本国憲法下で即位した初の象徴天皇として歩んできた天皇陛下が、生前退位に向けた「お気持ち」を表明された。

 陛下は「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と、国民に語り掛けた。
 国政に関する権能を有しないと定めた憲法との兼ね合いに留意し、陛下は「退位」の文言を用いることは避けたものの、82歳の年齢を踏まえ、今後の活動が難しくなることへの懸念を色濃くにじませた。
 感情を抑えた穏やかな口調の陰に、陛下の切迫感と天皇の務めを果たす強い責任感が感じ取れた。
 憲法は天皇の地位について「主権の存する日本国民の総意に基づく」と規定している。生前退位は象徴天皇制の根幹に関わる。
 皇室典範の改正などの課題は山積しているが、異例のメッセージに踏み切った陛下の心中をおもんぱかり、生前退位を認める方向で国民的論議を深めねばならない。現に共同通信の全国世論調査で、86%が生前退位を支持している。
 就任以来、平和憲法を重んじてきた陛下は「象徴天皇の地位と活動は一体不離」との信念を貫いてきた。国事行為以外にも、「常に国民と共に」「声なき国民の苦悩に寄り添う」という思いを忘れず、とりわけ、沖縄など、太平洋戦争の犠牲者の慰霊に心を砕いてきた。
 広島、長崎の原爆犠牲者に黙とうをささげ、中国や韓国の苦難に「深い悲しみ」を表明してきた。阪神淡路大震災や東日本大震災などの被災地にも小まめに足を運び、被災者を激励した。
 沖縄には即位前から10回も訪れ、琉歌で戦没者を哀悼している。父の昭和天皇が米国に差し出すことを認めた沖縄の痛みに触れ、昭和天皇と戦争責任、民主主義の関係に葛藤しながら、象徴天皇としての自らを磨き上げたのだろう。
 多くの国民が敬意と共感を抱き、昭和天皇には厳しい沖縄県民の間でも好意的な人が多い要因だろう。
 お気持ちの表明を受け、生前退位をめぐる議論が国会などで進むことになるが、実現には退位制度新設、新たな元号や退位した天皇の呼称など、問題が山積している。
 国民一人一人が「国民統合の象徴」としての望ましい天皇の在り方を見いだす意識を強めたい。