<社説>被爆から71年 「核なき世界」へ踏みだそう


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 広島、長崎の町が一瞬にして焦土と化した原爆投下から71年がたった。オバマ氏が初めて現職の米大統領として広島を訪問した今年、広島、長崎両市長は平和宣言でオバマ氏の行動を評価した上で、改めて核兵器保有国首脳の被爆地訪問を求めた。

 「核なき世界」を構築するためにはまず、唯一の被爆国である日本を訪れ、核兵器の非人道性を首脳自身が見て、聞いて、さらには五感で感じ取ってもらいたい。歴史の節目とも言えるオバマ氏広島訪問を契機に「核なき世界」実現へ踏みだす年としたい。
 松井一実広島市長は平和宣言で核兵器廃絶に向けた行動理念として「情熱」「連帯」を掲げ、各国指導者に信頼と対話による安全保障の仕組み作りを求めている。
 田上富久長崎市長はより踏み込み、日本政府に対して非核三原則の法制化、北東アジア非核兵器地帯の創設を検討するよう求めた。
 両市の平和宣言に共通するのは「核の抑止力」を否定し、唯一の原爆投下国である米国、唯一の被爆国・日本にそれぞれリーダーシップを発揮するよう促したことだ。
 オバマ氏は広島訪問を契機に、核兵器の先制不使用宣言や、爆発を伴う核実験の禁止を呼び掛ける国連安全保障理事会決議案提出などを準備しているとされる。
 残り任期が半年を切る中で、政権の「遺産」をつくる意図との見方もあるが、米国の核政策を大転換する英断を歓迎したい。中でも先制不使用宣言は、核兵器の役割低減につながり、今以上の核拡散を防止する効果も期待できる。
 残念なのは日本政府の対応だ。「核の傘」弱体化を恐れ、政府内での反対論が根強いことから米国に2国間協議を申し入れている。冷戦時代の遺物である「核の傘」に頼る発想は時代遅れだ。同盟国であるならば米国と連帯し、核廃絶への道筋をつくることが被爆国としての役割でもある。
 懸念されるのは被爆、戦争体験の風化だ。厚生労働省によると、被爆者健康手帳を持つ人は2016年3月末時点で全国に約17万人、平均年齢は80・86歳と高齢化が進む。国内で唯一住民を巻き込んだ地上戦があった沖縄とも共通する課題だ。道のりは遠いかもしれないが、体験者とその次の世代が協力し、核なき世界、戦争のない世界の実現まで連帯することを改めて確認したい。