<社説>大阪女児焼死無罪 自白偏重が冤罪生んだ


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 娘の不慮の死を悼む間もなく「娘殺し」の汚名を着せられた母親と、男性の無念さは察するに余りある。

 大阪市東住吉区で1995年に起きた小学6年女児の焼死を巡る再審で、大阪地裁は殺人罪などで無期懲役が確定した母親と同居していた男性に、いずれも無罪を言い渡した。
 2人が大阪府警に逮捕されたのは火災から約2カ月後。保険金目的で自宅に放火し、長女を殺害したとして起訴された。2人とも公判では否認に転じたが、捜査段階の自白を証拠とされ、一審の無期懲役が最高裁で確定した。
 無罪に導いたのは2009年の再審請求後、弁護側が行った再現実験だ。
 火災現場の浴室に隣接する車庫内の風呂用ガスバーナーには種火がついていた。自白に基づいて「約7リットルのガソリンをまき、ライターで着火」すると、瞬時に火の海になり、大量の黒煙が出た。
 自白通りなら男性は大やけどを避けられない。しかし実行犯のはずの男性は髪の毛が少し燃えた程度だった。近隣住民の「火災発生当初は火の勢いはそれほど強くなかった」という証言とも矛盾した。
 府警は男性を逮捕した直後、ガソリンをまき火をつけたという自白に基づいた確認実験をした。その際も建物はすぐに火の海になった。目撃証言との矛盾は明らかだった。
 問題は府警がこうした矛盾点に目を背け、強要した自白に頼り続けたことだ。
 再審請求で初めて証拠開示された府警の取り調べ日誌は、刑事らが2人に強い言葉で繰り返し自白を迫った記述がある。捜査当局が「保険金目当ての放火殺人」という見立てに沿って自白を強要したことがうかがえる。
 高裁も「忠実な再現実験は不可能」などとし、自白の信用性を疑わずに有罪とした。捜査当局の自白偏重を追認し、冤罪(えんざい)を生んだ責任は重い。
 今回の再審では「推測に基づく取調官の誘導、示唆により不自然な自白をした疑いがある」と指摘したものの、誤判の原因を明確に示していない。二度と冤罪を生まないためには警察、検察、裁判所が捜査や裁判の過程を詳細に検証し、責任を明確化するべきだ。自白を偏重し、科学的実証を軽んじる捜査手法はもはや成り立たない。