<社説>高江交付金要望 反対民意封じ込めに使うな


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 反対の声が根強いヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の建設、運用を地元自治体の長が容認すると見なされかねない。誤ったメッセージとなることを危惧する。

 「アメとムチ」を駆使した安倍政権特有の基地押し付け施策の下では、地元の民意が曲解されて拡散される恐れが強いからである。
 米軍北部訓練場の新たなヘリパッドの運用に伴う騒音被害への補償を巡り、伊集盛久東村長が、騒音の直撃を受けている高江区に直接、交付金を支払う制度の創設を国に求めた。自民党県議団を介する形で安倍政権と自民党本部に要望する。
 安倍政権は7月22日、高江区民らの反対を押し切る形で工事に着手し、機動隊員が市民を排除したり、県道を封鎖したりするなど、力ずくで工事を進めている。
 地元の高江区は建設反対を全会一致で2度決議し、現場では市民と機動隊が対峙(たいじ)する緊迫した状況が続いている。
 こうした中で、村を訪ねた自民党県議団に対し、伊集村長が高江区への交付金制度創設を要望したが、なぜ今か。唐突感は否めない。
 ヘリパッドの建設を容認する伊集村長は早朝・深夜の飛行中止や住宅地や学校上空を飛行しないことなど、住民生活を脅かす訓練を改めるよう求めた。
 だが、併せて交付金制度創設を要望したことで、ヘリパッドの運用を前提とすることになり、補償型の基地維持施策に手を貸す意味合いを帯びてくる。
 地方自治体を通さず、字単位の自治組織に直接交付金を払う制度は、国が米軍普天間飛行場の移設先とする久辺3区で始まっている。基地容認の対価の性格が色濃く、地方自治法上の法的根拠に乏しい。
 「アメとムチ」をまとった直接交付金制度に対し、地方財政の識者などから、地方自治の精神に反するという根強い批判がある。
 先行提供され、運用されるヘリパッドでは海兵隊のオスプレイの夜間訓練が激増し、不眠を訴える住民もいる。6月の騒音発生回数は2年前の8倍、夜間は24倍になった。
 風光明媚(めいび)で静かな集落の生活環境は激変し、琉球新報の戸別訪問調査によると、区民の8割が新たなヘリパッド建設に反対している。安倍政権は、直接交付金要望を高江区民のヘリパッド反対の民意を封じ込める手段に用いてはならない。