<社説>自衛隊新任務訓練 日本ならではの役割担え


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 政府は、安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」など、自衛隊の新任務実施に向けた訓練に着手した。国外で一発の銃弾も撃つことがなかった自衛隊の任務と活動範囲が大きく変容する。

 「駆け付け警護」訓練は、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)へ新たに派遣する陸上自衛隊に対し実施を想定している。しかし、同国は7月、治安が悪化し約300人の死者を出している。自衛隊の宿営地内にも弾頭が落下した。撤退を含め、派遣すべきかどうかの検討が先だ。
 戦後日本は、周辺国に対する攻撃力を持たず脅威とならない「専守防衛」の姿勢を貫いた。PKOも、治安維持活動からは一歩引いてきた。
 中東やアフリカで起きている紛争や人道上の問題を、軍事力で解決することは難しい。難民支援、インフラ整備、医療支援、人材育成など日本ならではの役割を担うべきだ。
 安倍政権は2014年7月、憲法解釈の変更を閣議決定し集団的自衛権の行使を容認した。これを受け、憲法学者の大半が違憲と批判した安保法を自民、公明両党は昨年9月、数の力で成立させた。
 しかし、安保法について国民の理解が十分に広がったとは言えない。共同通信が3月に実施した全国電話世論調査で、安保法を「評価しない」は49・9%、「評価する」は39・0%だった。参院選でも安保法の是非が最大の争点だったとは言えず、与党の勝利で容認されたわけではない。
 安倍晋三首相は安保法により米軍と自衛隊の一体化を加速させることで、日本の抑止力が高まると説明する。しかし、日本が攻撃されていないのに集団的自衛権を行使したり、米艦船を防護したりすれば、相手国にとっては日本も敵になる。本来は戦争の当事者ではない日本が戦争に巻き込まれてしまうことになる。
 自衛隊は他国軍への後方支援の拡充、PKOでの「駆け付け警護」、他国軍と「宿営地の共同防衛」など、任務が拡大した。
 イラク派遣では武器を使わない任務に徹したため、一人の犠牲も出さなかった。しかし、安保法成立によって自衛隊が「戦場」に近づく機会が増え、隊員のリスクが高まる。武器を使用することで、テロ集団の攻撃対象になる可能性があることを忘れてはならない。