<社説>泡盛の普及促進 文化としての継承に英知を


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 米と水、そして黒麹(こうじ)、沖縄の風土がつくり上げた銘酒が岐路に差し掛かっている。

 県酒造組合が発表した2015年の泡盛出荷量は11年連続で減少し、2万キロリットルの大台を割り込んだ。
 東京商工リサーチ沖縄支店の調査では県内メーカー45社の総売上高は最盛期の約299億円に対し、43%減の約169億円に落ち込んでいる。
 一方で明るい兆しもある。沖縄国税事務所によると、15年度の県内向け課税出荷量は10年ぶりに増加した。好調な県経済や観光客の増加が寄与したとみられる。
 厳しい状況にあるのは間違いないが、観光客らに泡盛の良さを知ってもらい、県内外にさらに広まることを期待したい。そのためにはメーカー、飲食店事業者、行政も含め関係者一丸となって対策に当たることが不可欠だ。
 本紙経済面で4月から連載した「沖縄美ら酒物語」は、泡盛の歴史に始まり、業界を取り巻く現状と課題、普及促進への提言など生産者を中心に消費者の視点も交えて紹介した。連載終了を受けて開催した座談会では、識者らから熟成過程での仕次ぎや古酒に「文化としての泡盛」という位置付けがなされた。さらに新カクテル開発といった世界規模の普及に向けた提言もあった。
 泡盛の女王を経験し、泡盛の世界遺産登録推進委員会推進大使を務める国吉真理氏は「古酒は泡盛の王様」と語り、イメージ戦略の重要性を訴えた。
 泡盛マイスター協会会長の新垣勝信氏は仕次ぎや古酒づくり講習会の開催を提案し、若い世代への継承を重視している。
 今後、世界無形文化遺産登録を目指すに当たり、こうした提言を幅広く活用してもらいたい。
 一方で課題も多く残されている。忠孝酒造社長の大城勤氏が指摘するように、泡盛の研究は進んでいない。日本酒や焼酎などほかの酒類の研究による蓄積を活用してはいるものの、泡盛に特化した研究は少ない。
 泡盛のさらなる普及には課題も多いが、大城氏が指摘するように研究は緒に就いたばかりだ。むしろ伸びしろは大きいともいえる。
 3氏が強調する通り、泡盛は古酒に象徴されるような世代を超えて継がれる文化でもある。先人から受け継いだ文化を廃れさせてはいけない。まずは世界遺産登録を目指し、県民の英知を結集したい。