<社説>ヘリパッド工期短縮 日米両政府は森も殺すのか


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 希少な生物が暮らす深い森の中心部に、1日124台もの資材運搬車両が行き来し、建設機材のモーターからは大量の排気ガスが出される。川からは工事で生じた赤土が流される。

 世界自然遺産登録を目指す、世界でも有数の動植物が生息するやんばるの森でこうした工事のやり方が許されるのか。
 東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)工事で、沖縄防衛局は工程変更に伴う環境影響評価検討図書を県に提出した。
 工期を当初予定の1年1カ月から6カ月に短縮し、3地区のヘリパッド工事を一度に進める計画だ。
 北部訓練場の約半分の返還という目標を最優先し、当初挙げていた「動物への影響を少なくするために1地区ずつ進める」としていた環境影響評価書の計画をかなぐり捨てた。
 防衛局は工程変更で環境への負荷が高まることを認めている。資材運搬車両の走行台数は4倍となり、ロードキル(動物の輪禍)発生が高まる。建設機材から出る大気汚染物質の排出量も増加する。工事地区を流れる宇嘉川流域などからは赤土流出や水質汚濁の懸念があると明記する。
 すでに工事による環境破壊は始まっている。通称「N1ゲート裏」からN1地区ゲートにつながるあぜ道では、幹が20センチ以上ある樹木など近辺の森が伐採された。
 政府が工事を急ぐ理由は北部訓練場の過半の返還という、数字上の体裁が整う基地負担軽減を進めたいという焦りだ。
 それは米国の要求でもある。米側は、名護市辺野古の新基地建設の遅れを米上院軍事委員会などでたびたび指摘されている。国防総省は辺野古の遅れが在沖海兵隊のグアム・ハワイ移転などアジア太平洋地域の米軍再編計画に影響すると懸念を示している。米側にとってヘリパッド新設は、使わない土地を返還しつつ、基地機能の強化と米軍再編の進展をアピールできる。
 米国の詩人、アーサー・ビナード氏は東村高江に立ち、「森が殺される」と嘆いた。政府は辺野古の海を埋め立てて160ヘクタールの新しい基地を建設して海を殺そうとし、やんばるの森をも殺そうとしている。工期短縮は息の根が止まるのを早めるだけだ。沖縄の負担軽減をかたって海も森も殺すことは許されない。