<社説>続く年金運用赤字 株式投資偏重を見直せ


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 安倍政権下で公的年金の運用損が膨らんでいる。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2015年度の5兆3千億円余の赤字に続いて、16年4~6月の3カ月でも15年度に匹敵する5兆2342億円の赤字を発表した。

 安倍政権はアベノミクスの成長戦略として14年10月、年金積立金の株式運用を従来の24%から50%に拡大した。その結果である。基金の株式投資の拡大に対し、当初からあった「不安定な株式投資は老後を支える年金財政を不安定にしかねない」との懸念が、現実味を帯びてきた。
 15年度の運用損は5兆3098億円。四半期ごとに見ると15年4~6月は約2兆6千億円の黒字。これが7~9月は約7兆9千億円と過去最大の赤字に転落。10~12月は約4兆7千億円の黒字に復調したが、1~3月は再び約4兆8千億円の赤字に陥った。
 四半期ごとの黒字-赤字の転換は、株式投資の不安定さを如実に浮き彫りにするものだ。
 昨年7~9月の過去最大、8兆円近い赤字は、中国経済の悪化による世界同時株安が直撃した。今年4~6月の5兆2千億円余の赤字は英国のEU離脱による円高・株安が影響した。
 景気や株価は国際経済の影響が大きい。今後、08年のリーマンショック級の世界金融危機が起きた場合、株式の暴落により、年金積立金も大幅な運用損となりはしないか。
 4~6月の運用損の結果、株式投資を拡大した14年10月の運用見直し以降の累計損益も、初めて赤字に転落した。
 年金の株式投資で株価の上昇を当て込んだアベノミクス戦略にも疑問符を付けざるを得ない。
 運用損が長期化する前に、株式投資に偏重した運用を見直すべきタイミングではないか。詳細な情報開示と国民的議論が必要だ。
 GPIFは「短期的な運用損は年金額に影響しない」としている。しかし運用損が今後も続いて大幅に拡大した場合、将来の年金額の減額につながる懸念は拭えない。
 カナダやスウェーデンでは年金運用損などで年金財務が悪化した場合に、年金給付額の据え置きや引き下げの措置を取っている。
 国民の老後を支える年金積立金は安定的な運用が本来の在り方だ。株価下支えの歪(ゆが)んだ運用基準を見直し、リスクの少ない国内債券を中心とした運用基準に戻すべきだ。