<社説>生活保護返還要求 奨学金の収入認定見直しを


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 貧困の連鎖をなくすには困窮家庭の子弟の就学支援に力を注ぐ必要がある。行政や関係機関は制度を活用し、可能な限り支援を尽くしてほしい。

 那覇市の生活保護受給世帯に対し同市が、子女2人の貸与型奨学金を収入と見なし、生活保護費の返還を求めている。
 返還請求が妥当かを考える中での大きな疑問点は、同市が子女の貸与型奨学金を収入と見なしていることだ。
 市の請求に従えば、奨学金約93万円分の生活保護費を返還せねばならない。一方で貸与された奨学金も貸与先に返済する義務がある。これでは貸与額の2倍の「二重借金」を負うことにならないか。
 今回の件で那覇市は2度、返還請求を行っている。当初は奨学金約100万円分の返還を請求。これを審査した県が請求処分を取り消したため、再調査の上、7万円余を減額して再び返還請求した。
 わずか7万円の控除額にとどまったのは、保護世帯が奨学金の使途に関し、英検1回の領収書しか提出できなかったためという。
 この判断にも疑問がある。生活保護費の審査では、「自力更生につながる費用」は収入と認定しないのが全国の傾向だからだ。
 埼玉県立大学教授の長友祐三氏は「領収書がなくても控除できると国会で説明されている」と指摘している。自立支援の奨学金は生活保護世帯の「収入認定からは除外すべきだ」とも指摘する。
 那覇市は奨学金のほぼ全額の返還請求を再考すべきだ。「収入認定から除外すべきだ」との指摘に従えば、返還請求の取り下げを検討すべきではないか。
 子女2人は教材費や資格取得費、部活費など生活保護の就学費として申請できた支出も、制度を知らず奨学金で補っていた。制度の周知不足が余計に家計を苦しめた。
 本来なら市の担当者やケースワーカーが積極的に制度を教え、活用を促すべきだった。2度の返還請求を含め、生活保護世帯の自立支援に前向きの対応だったとは言い難い。
 子女の1人は大学に進学。妹も高校を卒業しアルバイトをしながら進学を目指している。奨学金は自立への大きな手助けとなった。
 今回の問題で生活保護などの困窮世帯が奨学金の利用に後ろ向きになることがあってはならない。県や市町村は同様のケースを洗い出し、前向きに対応してほしい。