<社説>警察の作業員輸送 公平中正の責務忘れたのか


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 やんばるは治外法権に置かれているようだ。国頭村安波の県道で、米軍北部訓練場ヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設の作業員約10人を警察が車両3台でゲートまで輸送した。乗合タクシーなどではない。赤色灯を搭載しているれっきとした警察の緊急自動車に同乗させている。

 作業員はヘリパッド建設に反対する市民らに車両の通行を足止めされ、車を降りて工事現場に通じるゲートまで徒歩で向かっていた。すると警察官が車両に乗るよう促し、ゲート前まで送り届けた。これが警察の職務といえるだろうか。
 警察の責務について、警察法第2条1項では「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取り締まりその他公共の安全と秩序の維持に当たる」とある。そして2項では警察の活動について「厳格に前項の責務の範囲に限られるべきもの」とあり「不偏不党かつ公平中正」を求め「権限を乱用することがあってはならない」と戒めている。
 作業員の輸送について県警は「警察官が(足止めの)現場からゲートに戻る際に、同じ方向に歩いて向かっていたこともあり、安全確保と(トラブルの)予防措置のため乗せた」と説明している。それなら警察は緊急自動車で走行する際、同じ方向に歩いている人を見つけたら、いつでも、誰でも「安全確保と予防措置」で乗車させてくれるというのか。
 警察は同じ県道で、建設に抗議する市民にはまったく違った対応を取っている。県道を歩く市民を取り囲むように追尾したり、警察の大型車両の間に大勢を閉じ込め、炎天下で約1時間半にわたって自由を奪ったりしたこともある。閉じ込めは職権乱用による逮捕監禁を禁じた特別公務員職権乱用罪に該当しないのか。
 政府が強行するヘリパッド建設に協力する人には車両輸送の便宜を図り、反対する人には弾圧の牙をむく。極めて政治的だ。これでは警察法で定めた責務「不偏不党かつ公平中正」の誓いが泣くではないか。
 日本国憲法は第15条2項でこう定めている。「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」。警察は肝に銘じるべきだ。やんばるのヘリパッド建設現場周辺での傍若無人な「警備」活動など許されない。