<社説>川内原発停止再要請 九電は住民の安全優先を


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 鹿児島県の三反園(みたぞの)訓(さとし)知事が九州電力に対し、川内原発を即時一時停止し再点検するよう再度求めた。

 九電は8月の知事要請に対し、(1)既に熊本地震を受けて点検を行い、安全を確認している(2)原子力規制委員会から停止する必要がないとの見解が示された-ことを主な理由に挙げ、停止を拒否した。今回も応じない公算が大きい。
 だが規制委の見解は「絶対安全」を意味するものではない。規制委の田中俊一委員長は2015年8月、原発の安全性を巡り「絶対安全とは申し上げないし、事故ゼロとも申し上げられない」と述べている。
 東京電力福島第1原発事故を受けて策定した新規制基準は、事故が起き得ることを前提にしている。規制委の審査に合格しても、絶対に安全ではないということだ。
 九電が「安全を確認」しても新規制基準の前提からすれば、事故のリスクはゼロではない。これを「安全」と言えるだろうか。
 15年8月の川内原発1号機再稼働の際、九電の瓜生(うりう)道明社長は「安全確保を最優先に進めていく」とのコメントを発表した。原発の安全対策に万全はないことは福島第1原発事故が証明する。瓜生社長が自身の言葉に責任を持つなら、原発を一時停止して再点検に応じるべきである。
 九電は、県が求めた避難車両の充実や避難道路の整備支援に前向きに対応する方針という。だが地震と原発過酷事故の複合災害が発生すれば、地割れや土砂崩れで道路は十分機能しない恐れがある。熊本地震では道路が寸断され、集落が孤立した。九電の協力姿勢は評価するが、抜本的な安全対策には程遠い。
 「脱原発」を掲げた三反園知事は、原発再稼働を容認した現職に8万票以上の差をつけ当選した。圧倒的民意が後押しする知事要請を拒否することは容認できない。
 九電は川内原発再稼働で経営が改善し、16年3月期連結決算では5年ぶりの黒字となった。だが優先すべきは住民の安全である。九電は三反園知事の要請に真摯(しんし)に向き合うべきだ。
 原発一時停止拒否問題には、辺野古新基地問題と似た構図が透けて見える。政府と企業、埋め立てと原発稼働の違いはあるが、いずれも前知事の同意を否定する民意が選挙で示されたにもかかわらず無視されている。民主主義に逆行する状況の広がりを危惧する。