<社説>過労死ライン超2割 残業制限を急ぐべきだ


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 厚生労働省が過労死等防止対策推進法に基づき初めてまとめた2016年版「過労死等防止対策白書」の概要で、過労死ラインとされる月80時間を大幅に超えて残業をした正社員のいる企業が23%に上ることが分かった。うち100時間を超える企業が12%もあった。

 由々しき事態である。労働者が危機にさらされている現状の改善は急務である。
 労働者の健康と命を守ることが大きな責務であることを、企業は改めて自覚する必要がある。長時間労働をさせない努力を求めたい。政府も労働者を守る視点で、実効性のある残業時間の制限設定の法制化を急ぐべきだ。
 15年度に労災認定されたのは前年度比25件減の472件で、うち過労自殺(未遂含む)は6件減の93件だった。仕事による脳・心臓疾患の労災認定は26件減の251件で、うち過労死は25件減の96件あった。
 減少したとはいえ、依然として高い水準にあることに変わりない。過労死ゼロに向けた取り組み強化は喫緊の課題である。
 政府は長時間労働を是正し、残業規制を見直すため労働基準法を改正し、残業時間に上限を設け、違反した際の罰則を設けることを検討している。「1億総活躍プラン」でも長時間労働の是正を掲げている。
 だが昨年、国会に提出した労基法改正案の柱は(1)裁量労働制の対象業務の拡大(2)「高度プロフェッショナル制度」の新設-である。
 裁量労働制は、あらかじめ定めたみなし労働時間を超えて働いても、その分の残業代は出ない。高度プロフェッショナル制度は、高収入の専門職で働く人を労働時間規制から外し、残業代の支払い対象から除くものだ。
 使用者側の立場に重きを置き、労働時間の規制を緩める内容である。過労死を招き、女性の活躍を阻むことにつながる懸念を払拭(ふっしょく)できない。
 そもそも残業時間に上限を設ける一方で、その対象外とする労働者を生み出すことを過労死対策と呼ぶことはできない。政府は過労死対策を「国の責務」とした過労死等防止対策推進法の原点に立ち返るべきだ。
 労働者の健康や命に最大限配慮しない国に未来はない。働き過ぎの是正に向け、官民挙げた取り組みを強化したい。