<社説>安保法成立1年 矛盾と疑問は残ったままだ


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 集団的自衛権の行使や地球規模での他国軍支援を可能にする安全保障関連法が成立して1年となった。戦後日本の安全保障政策を大きく転換させる法律は運用段階に入った。

 だがこの法律は集団的自衛権を行使する要件や、憲法9条が禁じる海外での武力行使につながる可能性をどう解釈するのかなどの定義が曖昧だ。専門家からは憲法違反と指摘されており、野党も同法の廃案を求め対決姿勢を崩していない。国論は割れたままだ。
 昨年9月19日、多くの反対を押し切って安保法が成立した。しかし安倍政権はその後も国民世論の理解を深めようという努力をほとんどしてこなかった。それどころか反対する世論の沈静化を図るためか今年7月の参院選が終わるまで、新任務に対応した自衛隊の訓練を「封印」した。防衛省が安保法に基づく新たな任務の訓練開始を表明したのは参院選後の8月24日だ。
 安倍政権は日本周辺の安全保障環境が厳しいから安保法制の整備が喫緊に必要だと主張している。先延ばしは矛盾する。そもそも自衛隊の運用という国の基本に関わる問題で国民に根強い反対論がある状況では、運用できるはずがない。
 しかし安保法案を審議した昨年の国会では、実際に派遣される自衛隊の「リスク」について、ほとんど説明されず、犠牲が発生する状況は審議を尽くしていない。それどころか、国際的に見れば自衛隊員をあえて危機に陥れるような答弁まであった。
 一例を挙げると、昨年7月の国会審議で岸田文雄外相は、後方支援活動中に自衛隊員が戦闘に巻き込まれて身柄を拘束されても、拷問をしないなど人道的処遇を定めたジュネーブ条約上の「捕虜」に当たらないと明言した。捕虜としての権利を、派遣した国が自ら放棄するのか。国際紛争の解決などで実務経験を持つ東京外国語大の伊勢崎賢治教授は「神学論争でしかない」と指摘している。
 同法は、11月に国連平和維持活動(PKO)で南スーダンに派遣される陸上自衛隊部隊に対し「駆け付け警護」などの新任務が付与されるかが当面の焦点だ。
 しかし矛盾と疑問が残ったままで、国民の理解を得ることは難しい。今月26日召集の臨時国会で野党の安保法廃止法案を受け入れるべきだ。