<社説>世界最古釣り針発見 研究と観光の融合に期待


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 沖縄、日本の人類史に新たな1ページを開いた。南城市の観光施設「ガンガラーの谷」内にあるサキタリ洞遺跡で、約2万3千年前の世界最古の釣り針が発見された。同時に国内では2番目に古い約3万年前の幼児の人骨や食料としたカニの爪なども見つかっている。

 人と道具の両方が見つかったことは、当時の人の暮らし、沖縄に住む人々がどのような文化を持っていたのかを解明する大きな手掛かりとなる。
 今回の発見の意義は次の点が挙げられる。(1)旧石器人が3万5千~3万年以上前には沖縄島に渡来していたことが確認された(2)3万5千~1万2千年前の約2万年間生活が継続し、「資源の限られた島で集団が長期間存在することは旧石器時代の技術では困難」とする仮説が否定された(3)旬のカニを食べるなど動物資源を季節的に利用する文化があり、釣り針の発見によって独特の先進的な漁労文化がある可能性が示された-などだ。
 琉球列島で最古の人類は山下洞人(那覇市、3万6500年前)だが、発見から半世紀がたち、年代測定手法の深化があったことから、研究者の中には旧石器人の渡来時期が正確か危惧する意見もあったという。今回のサキタリ洞遺跡での発見により、3万年以上前には沖縄列島の中央部に旧石器人が住んでいたことが確定した。
 九州から北海道まで県外の旧石器時代の遺跡は、遺物は出るが人骨がなく、沖縄は人骨が出ても遺物がないという状態が続いてきた。
 人、食、道具が同じ遺跡にそろい、旧石器時代から貝塚時代の初期まで点々とあった遺跡や人骨がようやく線でつながったといえる。
 中でも画期的なのは約1万6千年以前の旧石器時代と、その後に続く貝塚時代(県外では縄文時代)のつながりという歴史の空白を埋める可能性が出てきたことだ。
 今後は大陸からの渡来の方法、縄文文化への影響などさまざまな課題がある。さらなる研究の発展を期待する。
 さらに今回は観光施設内で発見されたことも重要だ。「ガンガラーの谷」では発掘現場のすぐ隣で飲食の提供、コンサートの開催や、遺跡ツアーにも活用している。
 世界に誇る遺跡を教育・研究目的だけでなく、観光にも活用する一つの在り方を示している。沖縄でしか見られない大事な遺産を守るのは当然として、活用法にも官民の知恵をさらに絞りたい。