<社説>着陸帯住民訴訟 国の人格権侵害を許すな


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 深刻な健康被害と住環境の破壊に直面する住民の切実な訴えだ。司法は国による人格権侵害をこれ以上許してはならない。

 東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設を巡り、東村高江などの周辺住民が国を相手に工事差し止めを求める訴訟を那覇地裁に起こした。差し止めを求める仮処分も申請した。
 原告は、ヘリパッド建設はMV22オスプレイの訓練激化につながるのは明らかで、騒音増加による身体的・精神的被害はさらに深刻になると予測している。ヘリパッド建設は周辺住民の人格権の侵害だというのが住民の訴えだ。
 住民の人格権侵害は現時点でも無視できない状況にある。訴状によると、オスプレイによる北部訓練場の騒音は徐々に激しさを増し、高江区における騒音の悪化は顕著に進んでいる。夜間の騒音で睡眠不足になった児童が学校を欠席する事例が東村教育委員会に報告されている。児童の教育の機会が奪われているのだ。住民は既に精神的、肉体的に限界に達している。
 ヘリパッド建設を強行する国は、大勢の機動隊によって建設阻止を訴える市民を排除し、自衛隊ヘリを使って機材を搬入した。まさに異常事態だ。
 新たなヘリパッドが完成し、使用が始まれば今以上に住環境の破壊が進むのは間違いない。ノグチゲラをはじめとする貴重な生態系への影響も避けられないはずだ。このような不正義を放置してよいのか、法の番人である司法の存在意義が問われているのだ。
 国の隠蔽(いんぺい)体質も許してはならない。ヘリパッド建設は1996年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告で明記された。その草案段階で米側はオスプレイ配備を記載したのに、国内の反響を恐れた日本側が削除させていたことが分かっている。その後もオスプレイ配備は隠されてきた。
 安全性で重大な懸念があり、低周波音による人体への影響も危惧されているオスプレイの配備が隠された事実をもってしても、SACO合意であるヘリパッド建設の妥当性が揺らいでいる。その点についても司法は厳しく判断してほしい。
 ヘリパッド建設は着々と進んでおり、住民生活の危機は日々迫っている。司法は工事差し止め仮処分を早期に決定し、深刻な人格権の侵害から住民を救済すべきだ。