<社説>稲田防衛相来県 「平行線」の理由受け止めよ


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 安倍晋三首相の忠実なメッセンジャー役は果たしただろうが、沖縄を説得する材料は持ち得なかった。就任後、初来県した稲田朋美防衛相は沖縄の負担軽減を繰り返したが、沖縄側の理解は得られず、本人も言うように「平行線」でしかなかった。

 稲田氏来県の目的は26日召集の臨時国会前に、米軍普天間飛行場の移設先とする名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブや、政府がヘリパッド移設工事を急ぐ米軍北部訓練場などを視察し、国会論戦に備えるというものであった。
 基地所在市町村の首長らと会い、地元の要望を直接聞く「丁寧な姿勢」を見せることで、辺野古新基地建設など目前の難題に挑む地固めの狙いもあった。
 加えて県と協議する姿勢を強調しなければならない事情もある。昨年11月に国が県を相手取った代執行訴訟は両者が協議を継続することを条件に和解となった。国が和解後に起こした不作為の違法確認訴訟は国が勝訴し、県は23日に上告した。国は最高裁で勝つためにも和解条項に基づいて、県との協議を続ける姿勢を見せねばならない。
 初来県の前日、米海兵隊のAV8Bハリアー本島東沖墜落事故が起きた。昨年8月、菅義偉官房長官が来県した当日も、うるま市沖で米軍ヘリが墜落した。沖縄に住む者にとって米軍機墜落は「今そこにある危機」である。沖縄の基地負担の一例だ。
 稲田氏は中部の基地所在市町村長との面談で、前日のハリアー墜落に対する抗議を受けざるを得なかった。翁長雄志知事からは事故後の沖縄防衛局の対応を「歴代防衛局長は能面のように米軍に申し入れると言って、中身がない」と皮肉られた。
 稲田氏がいくら「沖縄の負担軽減」を強調しても、平行線のままなのは、安倍政権の言う日米合意に基づく沖縄の基地政策が県民の負担軽減につながらないからだ。
 辺野古新基地建設は海を埋め立て機能強化された基地を造る計画だ。北部訓練場のヘリパッドは危険度の高いオスプレイ仕様のヘリパッドを集落近くに造るものだ。
 翁長知事が指摘した「基地負担軽減という意味からも差し引き損ということが(政府は)全く見えていない」という沖縄の感覚を稲田氏は受け止めるべきだ。