<社説>相模原事件2カ月 退院後のケア体制整備を


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 神奈川県相模原市の知的障がい者施設の元職員が入所者19人を殺害した事件から2カ月。再発防止に向けた厚生労働省の中間報告は多くの問題点を指摘している。

 事件は容疑者の元職員が「障がい者はこの世にいなくていい」という差別的な動機で犯行に及んだことが社会に大きな衝撃を与えた。
 犯行前、衆院議長に施設名を挙げて障がい者の大量殺人を予告する手紙を届け、警察も危険性を察知し、「他人を傷つける恐れが大きい」として措置入院を受けながら、退院後に事件を強行していた。
 犯行の予兆に警察、病院、相模原市が関わりながら事件を防げなかった。それぞれの対応の問題点を検証し、いかに改善を図るかが問われている。
 厚労省の中間報告は入院中、退院時の病院の対応の問題点、退院後の病院と相模原市の連携の不十分さを指摘している。
 元職員は入院時に大麻使用が分かっていたが、薬物の専門的な診断が不十分だったと指摘する。「他人を傷つける恐れがなくなった」とする退院の判断については「標準的な判断」と認めた。
 問題はその後だ。病院側の退院後の治療方針が不十分で、薬物乱用防止の指導が不足していた。外来予約日に来院しなかったことに対処せず、通院治療が中断したことで、元職員の状況、症状の確認がなされぬままとなった。
 病院から相模原市への通知文書にも「退院後の支援計画」が記されず、市が取るべき医療支援策が見過ごされてしまった。
 通院や面談など病院、市と元職員との定期的な接触、医療支援が継続されていれば、事件を防げたのではないか。措置入院を解除して後の支援体制づくりが急がれる。
 施設での元職員の言動、衆院議長への犯行予告など、不穏を察知しながら凶行を防げなかった警察の対応についても検証が必要だ。
 一方で措置入院や退院後の対応の強化、警察の防犯対策については、プライバシーや人権侵害につながらない慎重な対応が求められる。
 「障がい者はいなくていい」という動機の背景には有益、無益を決め付けて人の存在価値を判断する歪(ゆが)んだ考え方がある。差別やヘイトスピーチを容認する風潮とも無縁ではない。障がいのあるなしに関わりない「命の尊重」を社会全体で再確認する必要がある。