<社説>基地内逮捕容認 恣意的な運用許されない


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 日米両政府はヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)の建設工事が進む米軍北部訓練場に限って、基地内でも日本側が逮捕権を行使できることで合意した。施設内に立ち入って建設に抗議している住民を逮捕するための措置だ。

 当初は刑事特別法違反での逮捕を考えていたようだが、適用が困難との見解に傾き、現在は威力業務妨害容疑での逮捕を検討している。現場で住民を逮捕できるのなら、容疑は何でもいいのだろう。これでは法治国家の名が廃る。
 日米地位協定では第3条1項で、米側が「施設および区域内において、それらの設定、運営、警護および管理のため必要な全ての措置を執ることができる」とあり、基地内は米側以外の立ち入りや使用を禁止する排他的管理権を定めている。さらに17条10項では基地内は米軍の軍事警察が警察権を有すると定めている。
 つまり日本側の警察は基本的に、基地内で警察権を行使することはできない。しかし17条10項の合意議事録で、米軍が同意したり、重大な罪を犯した現行犯人を追跡したりしている場合は、日本の警察による基地内での逮捕権行使について「妨げるものではない」と記されている。今回の日米両政府の合意は、この合意議事録に基づいて北部訓練場に限定して認めようというものだ。
 合意を受けて日本側は当初、米軍基地内への無断立ち入りを規制する刑事特別法違反を適用し、沖縄防衛局の職員が現行犯で「私人逮捕」する方向で調整していた。しかし県警側から「公務で施設内にいる防衛局職員が逮捕の場合だけ『私人』になるのは整合性が付かない」との意見が出ていた。
 そこで出てきたのが、工事の進捗(しんちょく)に直接影響を与える抗議行動をしているとして威力業務妨害容疑を適用して逮捕しようという方針だ。まさに逮捕ありきの住民弾圧と言われても仕方ない。
 これまで米軍の排他的管理権の壁に阻まれ、基地内に逃げ込んだ容疑者の米兵の日本側への身柄引き渡しが実現せず、日本側が逮捕権を行使できなかった事例は数多くある。住民の人権が踏みにじられてきた。
 ところがヘリパッド建設に反対する住民の逮捕なら、いとも簡単に逮捕権行使を日本側に認める合意はあまりに不平等だ。恣意(しい)的な運用は許されない。