<社説>伐採2万4千本 北部訓練場を全面返還せよ


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 こんな計画が実施されたら、やんばるの生態系にとって取り返しのつかないことになる。

 東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)建設工事を巡り、政府はN1、G、Hの3地区で計2万4262本の立木(りゅうぼく)の伐採を計画している。伐採範囲は少なくとも3・8ヘクタール以上で、多大な環境負荷だ。
 米軍北部訓練場を除き、周辺は「やんばる国立公園」に指定されたばかりだ。北部訓練場は自然度の高い場所でありながら、国の管理が及ばない米軍施設だから指定から除外され、自然破壊が続く。
 政府は今後、国立公園指定地域を含む「奄美・琉球」の世界自然遺産登録を目指す。だが、米軍北部訓練場の存在は登録の最大の阻害要因である。
 ヘリパッド建設により伐採されるやんばるの森は、亜熱帯地域の照葉樹林が広がり多くの生き物が生息する。やんばる固有種のナミエガエルやノグチゲラ、ヤンバルテナガコガネなど、もともと数が少なく絶滅の危機にある動植物が生息している。生物の多様性という点では、他府県に比べ単位面積当たりで40~50倍と指摘される。
 専門家は「やんばるに生息する動物は5千種類以上、高等植物は千種類を超える。ヘリパッド建設に伴う森林伐採が森に風を通してしまい、生き物が好む湿り気を奪ってしまう」と警鐘を鳴らす。
 高木層の大量伐採により、残された周辺の樹木は強い直射日光や強風のあおりで相当な悪影響を受けるという。さらに樹齢60年以上で幹が太くてしっかりとした樹木は、ノグチゲラやヤンバルテナガコガネなど希少種の営巣に最適な環境でもある。それが伐採で消えてしまう。
 世界最大の自然保護機関・国際自然保護連合(IUCN)は2000年と04年、日米両国政府に対しノグチゲラ、ヤンバルクイナなど希少生物の保護を勧告している。
 世界自然遺産登録を目指すなら、IUCN勧告は無視できない。なぜならユネスコ世界遺産センターに日本政府が提出する推薦書は、同センターの諮問機関・IUCNが調査・評価するからである。
 世界自然遺産登録を実現し世界に誇る宝の森を次世代に残すために、ヘリパッド建設計画の中止と、米軍北部訓練場の全面返還を強く求める。