<社説>駆け付け警護 冷静な議論で歯止めかけよ


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 憲法違反の疑義が残る安全保障関連法に基づく新任務で自衛隊員を危機にさらしてはならない。冷静な議論で危険な自衛隊派遣に歯止めをかけるべきだ。

 安倍晋三首相は12日の国会答弁で、南スーダンに国連平和維持活動(PKO)で派遣する陸上自衛隊に安全保障関連法に基づく「駆け付け警護」などの新任務を付与した場合でも、「リスクが増えるわけではない」との認識を表明した。稲田朋美防衛相も同様の答弁をしている。
 安倍首相、稲田防衛相の認識は明らかに南スーダンの現状と懸け離れている。今月10日、首都ジュバにつながる幹線道路で市民を乗せたトラックが反政府勢力に襲撃され21人が死亡した。7月にも治安悪化で300人が死亡した。
 このまま見切り発車で新任務を与えられた自衛隊を派遣するようなことがあってはならない。隊員を危険に追いやるだけだ。
 現に政府は派遣する自衛隊に対し、新任務を付与するかどうかの判断を11月に先送りする方向で調整を始めた。現地情勢を見極める必要があると判断したのだ。
 南スーダンの不安定な治安状況を認識していながら、リスクは増えないと答弁する安倍首相や稲田防衛相の矛盾した姿勢を国民は許さないはずだ。
 安倍首相に至っては南スーダンの情勢について「永田町と比べれば、はるかに危険な場所」とも発言した。自衛隊員の生命を軽んじるような発言であり、到底許されるものではない。
 多くの反対を押し切って安全保障関連法が昨年9月に成立し、新任務付与に向けた自衛隊の訓練も始まった。しかし、安保法は憲法違反との批判は今も根強い。実際に派遣される自衛隊が直面するリスクに関しても政府は十分な説明をしていない。
 「積極的平和主義」を掲げる安倍政権は憲法解釈を改め、集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の海外活動の範囲を大きく広げた。安倍政権はそれを実行段階に移そうとしている。
 しかし、海外で1発の銃弾も発射したことのない自衛隊が「駆け付け警護」の任務を帯びることによる危険性は十分に議論されていない。海外での武力行使に引きずり込まれる可能性は十分にある。
 安倍首相らの答弁を聞く限り政府のリスク認識は浅過ぎる。このまま自衛隊を派遣してはならない。