<社説>年金制度法案 抜本改革へ徹底論議を


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 政府が今国会で成立を目指す年金制度改革法案が、衆院予算委員会で集中的に取り上げられている。国民生活に大きな影響を及ぼすだけに徹底論戦を望む。

 政府の年金制度改革法案は、将来の年金水準を確保するため、賃金の下落に合わせて支給額の抑制を強化する内容だ。
 現行法は高齢者の暮らしへの影響を最小限にとどめるため、デフレ下で物価より賃金が下がった場合は物価に合わせて引き下げる。また物価が上昇し、賃金が下落した場合は据え置く決まりだ。政府法案の新制度は賃金に合わせて改定され減額は今より大きくなる。
 民進党は仮に直近の10年間に新制度が適用されていれば、06年度に比べて年金は原則5・2%減るという独自の試算結果を示し「年金カット法案」と批判している。05年度に新制度が施行されていたと仮定した厚生労働省の試算でも、国民年金(老齢基礎年金)で1人当たり約3%、月2千円程度の減額になる。
 年金減額の批判に対し安倍晋三首相は「年金制度の持続可能性が強化される」と反論している。
 一方、政府は年金を受け取るのに必要な加入期間(受給資格期間)を現行の25年から10年に短縮する年金機能強化法改正案を今国会に提出した。受給資格期間の短縮は無年金者の救済につながる。成立すれば来年秋から約64万人が新たに年金を受け取れるようになるだけに、与野党とも立場を超えて早期成立させたい考えだ。
 ところが政府は異なる二つの法案の一括審議を要求している。野党が賛成する法案と対立する年金改革法案を一緒に審議することで成立しやすい環境を整えたいとの思惑があるのだろう。二つの法案は切り離して、是は是、非は非の論議を尽くすべきだ。
 さらに年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用は、2015年度の5兆3千億円余の赤字に続いて、16年4~6月も5兆2342億円の赤字になった。安倍政権が年金積立金の株式運用を従来の24%から50%に拡大した結果の運用損である。
 国民の老後を支える年金積立金は安定的な運用が原則だ。将来の年金水準を確保するというのなら、年金改革とともにGPIFの運用をリスクの少ない国内債券中心に見直すなど国会で論議すべきだ。