<社説>生前退位議論開始 新たな皇室像を考えよう


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 天皇陛下の生前退位を巡り、有識者会議での議論が始まった。8月に陛下が異例のビデオメッセージを公表したことがきっかけだ。有識者会議は、識者からの意見聴取などを基に、生前退位に関連する法律や憲法との関係を論じる。これを好機として、天皇の在り方、さらには皇室とはどうあるべきか、国民的議論を始めたい。

 82歳になる天皇の体調や心情を考えた場合、当面は退位の規定を定める一代限りの特別法はやむを得ないだろう。だが皇族の数が減り、皇室の活動が先細りする恐れもある中、特別法ではこれらの課題は解決できない。将来にわたり、皇室と国民の関係を考えるには皇室典範の改正を含め、長期的な議論がどうしても必要だ。
 有識者会議で論点となるのは(1)憲法における天皇の役割(2)天皇の公務の在り方(3)高齢となった場合の公務負担軽減策(4)摂政の設置(5)生前退位の可否(6)退位を認める場合、恒久的制度とすべきか(8)天皇が退位した後の身分・地位や活動の在り方-の8点だ。
 天皇は8月のビデオメッセージでこう述べている。「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」
 有識者会議の議論により、こうした天皇の懸念は確かに解消されるだろう。しかし将来の天皇が同じような課題を抱えた場合、再び特別法を制定しなければならなくなる。一代限りの特別法は課題を先送りするだけにすぎないのだ。
 天皇が国民に向けて発した問いは「象徴天皇の在り方」を国民と共に考えたいという点だろう。
 天皇は全国各地への訪問や被災者への見舞い、慰霊の旅など国民に寄り添うことこそが「象徴天皇」の務めであると考え、実践してこられた。こうした活動によって国民に「象徴」として認知されてきたのだ。
 憲法1条は象徴天皇の地位を「主権の存する日本国民の総意に基く」と定めている。
 国民の側も生前退位にとどまらず、女性の天皇、宮家を認めるべきなのか、皇室と国民の関係がどうあるべきなのか、新たな皇室像を考える議論が必要となろう。
 皇室に対しては国民の間にも多くの意見がある。結論を急がず、議論を深めたい。