<社説>ジュゴン姿消す 工事こそ生息脅かす元凶だ


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 国の天然記念物で絶滅危惧種のジュゴンが2015年1月以降、大浦湾内で姿を確認されていないことが分かった。沖縄防衛局が15年の調査結果をまとめた「シュワブ(H26)水域生物等調査報告書」で判明した。

 14年の調査では大浦湾周辺を移動する様子が2回確認されていた。15年1月下旬以降、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設作業の一環で、大浦湾内にはコンクリートブロックが投下された。それ以降、ジュゴンの姿が確認できないのであれば、工事の影響を疑うのが自然だろう。
 ジュゴンは国内で主に南西諸島に生息し、成長した個体は50頭に満たないといわれている。防衛局の調査などによれば、沖縄本島周辺海域に常在的に生息するジュゴンは3頭とみられている。うち2頭は親子の可能性がある。
 15年の調査は1、5、9、11月に20日間実施され、1頭も確認できなかった2日を除く18日間で延べ21頭を確認した。17頭は名護市嘉陽沖、4頭は西海岸の古宇利島海域だ。不明個体1頭を除く20頭は全て、本島に常在的に生息している3頭が繰り返し確認されている。
 3頭のうちAは嘉陽沖を中心に生息し、Bは古宇利島沖を中心に生息してきた。Cは当初、古宇利島海域を中心に生息していたが、その後は東海岸の嘉陽沖から大浦湾内までを主な生息域にしていた。
 ところが15年の調査で、Cの姿が確認されたのは古宇利島海域だけだ。大浦湾内や嘉陽沖では一度も確認されなかった。さらにAも07年から14年までは大浦湾の入り口付近まで回遊していたが、15年は湾内に近づいていない。
 日本自然保護協会の14年夏の調査では、ジュゴンが海草を食べた跡が湾内で110本確認されていた。しかし同年8月にフロート(浮具)やアンカー(重り)が設置されて以降、防衛局の調査では辺野古先北側で新たな食跡は確認されていない。
 防衛局は埋め立て申請書などで「辺野古地先の海草藻場を使用することは限定的」と結論付けているが、工事がジュゴンを遠ざけている。3頭のうち、2頭までが生息域にしている名護市の東海岸での基地建設こそ、ジュゴンの生息域を脅かす元凶といえる。調査結果を真摯(しんし)に受け止めるなら、政府はこのまま辺野古移設を進めることなどできない。