<社説>特養待機者大幅減 門前払いにほかならない


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 「必要な人に必要な支援を」という大事な視点が政府には決定的に欠けている。それが改めて浮き彫りになったと言えよう。

 特別養護老人ホーム(特養)への入所を希望しながら入れない待機者が38道府県で約22万3千人と、2013年の約38万5千人に比べて42%減ったことが、共同通信の今年10月末の集計で分かった。沖縄も待機者が3879人と、13年の5153人に比べ25%減っている。
 減少した主因は、15年4月から特養の入所条件が原則「要介護3以上」と厳しくなったことである。特養を必要とする人が減ったのではなく、要介護1、2の人たちを門前払いしただけのことだ。待機者減少は評価に値しない。
 要介護1、2でも認知症による徘徊(はいかい)がある場合、介護に当たる人は目を離すことはできない。高齢の配偶者や仕事を持つ家族には大きな負担となる。厚生労働省は特例での入所を認めているが、要介護3以上の待機者が20万人を超えることを考えれば、特例適用は一握りと見ていいだろう。
 安倍晋三首相は9月の所信表明演説で「介護離職ゼロを目指し、50万人分の介護の受け皿を前倒しで整備する」と改めて述べた。50万人分の「受け皿」は施設だけでなく、在宅サービスの整備も含まれる。
 だが、額面通りには受け取れない。政府は掃除や調理、買い物など高齢者の在宅生活を援助する介護サービスの縮小を検討している。「在宅サービスの整備」とは、切り捨てを意味するのではと疑わざるを得ない。
 12年度就業構造基本調査によると、介護・看護を理由に離職した人は10万1千人に上った。介護離職者全体に占める女性の割合は約8割を占める。特養の入所条件を厳しくする前で、この多さである。状況は悪化している可能性がある。
 行き場のない待機者を結果的に増やす特養入所条件のハードルを下げ、特養整備を推し進めない限り、安倍政権が掲げる「介護離職ゼロ」や「女性活躍社会」は到底実現できない。
 14年度の介護サービス費用は9兆5887億円で、制度が始まった00年度の2・6倍に上る。費用増加はそれだけニーズがあることの証しである。
 介護を必要とする人やその家族の立場に立たず、費用抑制だけに走るなら、政治は要らない。