<社説>TPP衆院通過 発効困難 国民も置き去り


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 国民の懸念を置き去りにし、数の力で押し切る。安倍政治の本質がまたも現れた。与党は衆院本会議で環太平洋連携協定(TPP)の承認案と関連法案を強行採決し、賛成多数で可決した。

 米大統領選ではTPP脱退を訴えたトランプ氏が勝利した。米議会で過半数を占める共和党の重鎮、マコネル上院院内総務は「TPPが年内に議会に提出されることは確実にない」と断言している。安倍政権が期待したオバマ政権下での承認は不可能と言っていい。
 米国の政治情勢を見れば、TPPの発効自体が困難になったことは明らかだ。日本がTPP承認案などの可決を急ぐ必要は一切なかったのである。
 TPPは署名後2年以内に12カ国全ての国が国内法上の手続きを完了しなかった場合、署名国の2013年の国内総生産(GDP)合計で85%を占める6カ国以上の手続き完了を発効要件とする。
 つまりGDPで計80%近くを占める日米両国の締結が不可欠ということだ。日本が国内手続きを終えても米国の手続きが完了しない限り発効しない。
 事実上、TPPは白紙に戻ったとみていいだろう。
 安倍晋三首相にトランプ氏を翻意させる力量があるとは到底思えない。採決を強行してまでTPP承認を急ぐことは重大な誤りである。政権を運営する首相としての資質を疑う。
 最も重大な問題は、TPPに対する国民や農家の不安に政府は答えず、審議が尽くされていないことである。
 衆院TPP特別委員会で、政府は「関税撤廃が原則の交渉で、多くの例外を確保するなど粘り強く交渉した」と説明した。だが、交渉記録の詳細は明らかになっていないため、説明をうのみにすることはできない。
 遺伝子組み換え食品など「食の安全」についても、政府は「安全ではないものが一般家庭に入ることは絶対にない」との説明に終始した。こんな安直な説明で、輸入食品の安全性が保たれると信じる国民はいまい。
 共同通信社が10月末に実施した全国電話世論調査では「今国会にこだわらず慎重に審議するべきだ」との回答が66・5%に上った。
 強行採決が残したものは一つしかない。安倍政権に対する国民の不信感である。