<社説>インドと原子力協定 核拡散の歯止め揺るがす


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 政府は、核兵器を保有し核不拡散条約(NPT)に加盟していないインドと原子力協定を結んだ。NPT非加盟国との協定は初めてだ。国連の核兵器禁止条約への反対に続いて核廃絶の国内、国際世論に背くものであり容認できない。

 大きな疑問が二つある。福島原発事故の検証も不十分なまま「原発は安全」として原発輸出大国へ突き進むことに国民の支持は得られているのか。
 第二の疑問は、NPT非加盟国への原発輸出が核不拡散の国際圧力を弱め、核兵器開発を容認し、技術転用による核兵器保有国の増加につながる懸念である。
 第2次大戦後の国際社会は、日本に原爆を投下した米国、核兵器開発で追随したソ連、英、仏、中国の戦勝5カ国にのみ核兵器保有を認め、それ以外の国に核保有を認めないNPTを定めた。
 しかしインドはNPTに加盟せず敵対する隣国パキスタンを念頭に核実験を強行。これに対抗しパキスタンも核実験を行い、核が核を呼ぶ「核の連鎖」を招いた。
 イスラエルも核兵器保有が確実視されている。核実験が疑われるイラン、核保有を公然と認める北朝鮮と、仮想敵国への対抗手段としての核実験、核兵器開発の連鎖が続いている。
 そうした中での核保有、NPT非加盟国インドとの協定である。協定は、核開発に転用可能な使用済み核燃料の再処理も認めている。
 平和利用が目的というのであれば「NPT未加盟国には原発を輸出しない」との原則的立場を堅持し、インドが保有する核兵器の廃棄とNPTへの加盟を求め、粘り強く交渉すべきだった。
 政府は当初、協定文書に「核実験をした場合の協力停止」を明記するよう求めたが、協定とは別の文書への記載にとどまった。実効性が疑われ、妥協に妥協を重ねた玉虫色の協定と言うしかない。
 安倍政権は成長戦略に原発輸出を掲げており、原発輸出の経済実利を優先し、核不拡散の歯止めを揺るがした責任は大きい。
 協定は国会承認を経て発効する。政府は核不拡散の歯止めをいかに確保するか丁寧に説明すべきだ。
 国民の間には「脱原発」の声も強い。原発への不安をよそに国内の原発再稼働を急ぎ、原発輸出大国を目指す安倍政権の姿勢は危うい。核兵器禁止条約反対の是非を含め、国会で徹底論議すべきだ。