<社説>JA全農改革案 「農業再生」こそ必要だ


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 農業、食料の自給は国の根幹であり、改革に当たっては慎重な議論が求められる。JAグループの中で商社機能を担うJA全農の改革に対して、政府・与党が方針案をまとめた。JAと政府の規制改革推進会議がともに受け入れ、決着が図られそうだ。

 政府・与党の改革方針案は(1)JA全農の購買部門の効率化(2)農産物販売促進の年次計画の公表義務付け-などが柱となっている。
 今後はJA側の主体性ある組織改革に注目したい。一方で今回の論議で明らかになったのは、誰のための改革かということだ。JA、改革会議とも、見据えるのは農家所得の向上だ。安定した食料の供給に農家の経営安定は不可欠である。農家の視線で改めて改革の行方を見守りたい。
 この間の議論を振り返ると、JAや自民党が猛反発したのは、改革会議が11日にまとめた提言が「全農解体」とも言える内容だったからだ。農産物の委託販売を廃止して全量買い取りにすることや、農薬・肥料など生産資材販売事業の大幅縮小などを挙げ、改革が達成できなければ、国が「第二全農」の設立を推進すべきだとした。
 改革会議の提言は農業の現場を反映していない。全量買い取りが実現すれば、需給によって販売価格が上下し、農家の手取りが減る可能性もある。目指す方向とは逆になるかもしれないのだ。
 農薬などの販売に企業が参入し、競争原理によってコストを抑えることはできるだろう。だが肝心の農産物価格が低下しては、何のための改革なのか疑わしい。
 今回の改革案に対し、JAおきなわ代表専務理事の普天間朝重氏が、農業協同組合新聞電子版のコラムで貴重な指摘をしている。
 1963年のキャラウェイ旋風で琉球農連(現在の経済連)に琉球政府が出した勧告は、農連事業の株式移行や肥料事業廃止などだった。結果的に勧告は撤回されたが、背景に農連を解体し、利権を得ようと市場参入をもくろむ「経済界の圧力があった」と推測し「繰り返してはならない歴史が繰り返されようとしている」と警鐘を鳴らしている。
 コスト抑制や効率化だけが農業の改革ではない。安定した経営と収入が保証される自立した仕組みこそが必要である。改革を目指すのなら産業としての農業の魅力を再生することに力を注ぐべきだ。