<社説>年金抑制法案 十分な議論と説明責任を


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 年金支給額の抑制を強化する年金制度改革法案が衆院厚生労働委員会で賛成多数で可決された。自民、公明両党と日本維新の会が「次世代につけを回さない」と賛成し、民進、共産、自由、社民の野党4党は「年金カット法案」と主張し、採決無効を訴えている。

 法案は年金の支給水準を抑えるための制度変更が柱だ。公的年金は税金と現役世代が負担する保険料を主な財源にして、高齢者に支払っている。少子高齢化に伴って保険料収入は減り、年金の費用は増えていく。このため支給水準を下げることで、限られた財源を世代間で分け合い、制度を持続させるのが目的だ。
 世代間の公平を確保することに異論はない。法案が公平を実現する内容になっているのかについて十分な説明を求めたい。
 法案は二つの抑制策を盛り込んでいる。そのうちの一つは年金額改定ルールの変更だ。年金額は毎年度、現役世代の賃金と物価の変動に応じて見直されている。現行は賃金が下がっても物価が上がれば年金額を据え置くが、2021年度以降は賃金に合わせて引き下げられる。
 納め続けた公的年金の保険料に対し、生涯でどれだけの給付が受けられるかを厚生労働省が世代ごとに試算している。厚生年金では1945年生まれの人は負担した保険料の5・2倍の給付を受け取れる。これに対して85年生まれ以降は2・3倍だ。世代間で大きな格差がある。こうした状況を放置することは許されない。
 一方で、現在の高齢者への減額による影響も見過ごせない。厚労省の試算では2005年度に施行されていたと仮定した場合、16年度の支給額は国民年金(老齢基礎年金)で1人当たり約3%、月2千円程度の減額となる。厚生年金では夫婦2人分の標準的なケースで月7千円程度の減額となる。
 しかし機械的な試算なので、実際の減額規模がどうなるのかは分からない。さらに消費税率が10%に引き上げられれば、給付措置を受けても低年金者の生活が立ち行かなくなる懸念も拭えない。
 世代間の公平と将来の年金水準を確保するため、多くの国民は制度改革が必要だと理解している。法案がその期待に応えるものになっているのかについて、国会で十分議論を尽くし、同時に説明責任を果たしてほしい。