<社説>酒連に自民支部要請 露骨な見返り要求やめよ


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 あまりに露骨な見返り要求である。税の公平性の観点からも重大な問題が潜んでいる。政治の世界によくある取引と割り切るわけにはいかない。

 来年5月に期限が切れる酒税軽減措置の延長に絡めて、自民党が延長を要望している県酒類製造業連絡協議会(会長・嘉手苅義男オリオンビール社長)に対し、「職域支部」の設置を求めている。
 酒税軽減延長は29日の自民党税制調査会で大詰めの議論が予定されている。こうした時期に、1強体制を維持する自民党が県酒連に支部設置を働き掛けるのは、税を取引材料に党勢拡大を図る圧力そのものである。
 県酒連は泡盛業界を束ねる県酒造組合とオリオンビールなどで組織されている。自民党税調での議論をにらみ、嘉手苅会長らが党本部の二階俊博幹事長らに延長実現の要請を重ねている。こうした動きを踏まえ、自民党は、軽減税率延長論議で有利に作用するとして、県酒連に支部設置を促している。
 泡盛業界は中小零細業者が多く、経営基盤確立に課題を抱える。今回の職域支部設置の働き掛けは、業界の弱みにつけ込んだ利益誘導政治の悪弊と見なさざるを得ない。
 軽減税率延長と党勢拡大は切り離されるべき問題であり、国民が納める税の公平性を確保せねばならない。自民党は支部設置要請を撤回すべきだ。
 沖縄の銘酒・泡盛や地元のビールとして親しまれているオリオンビールを愛飲する県民は保革を超えて存在する。特定の政党を支持する人だけではない。
 県酒造組合はこれまでも経済界の一員として、選挙の際には自民党などの保守系候補から組織的支援の要請を受けてきた。しかし、沖縄の伝統文化に根差す泡盛が政争に巻き込まれることを避けるため、企業が個々に対応してきた。あらためて、政治と一線を画す姿勢を再確認すべきだろう。
 業界団体ごとに置かれる自民党の職域支部は、公認候補の支援や業界代表を国政に送る活動をしている。だが、国民の暮らしに直結する税制改正に関連付けてアメとムチを使い分け、弱みがある業界に圧力を掛けるやり方は容認できない。
 酒税の軽減措置は8回延長されてきた。県内酒造業界は経営基盤強化の自助努力が足りないという指摘を重く受け止め、政治力に頼りがちな体質を改めねばならない。