<社説>魚市場移転見送り 泊、糸満の役割明確化を


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 2020年完成を目指していた泊魚市場の糸満移転が先送りされた。漁業者間の合意が得られていないことが理由だが、魚市場の移転に関しては基本計画がつくられた00年当初から、移転後の泊漁港再開発が課題とされてきた。

 移転に向け、改めて泊魚市場、糸満新市場を水産業の拠点として、どう位置付けるかが問われている。県は両漁港の役割を示した上で、漁業者の理解が得られるようリーダーシップを発揮することが求められる。
 当初17年度開業を目指していた計画が遅れたのは、泊漁港を拠点とする那覇地区漁協など7団体の理解が得られないことがある。
 糸満での水揚げにかかるコスト上昇や、移転後の泊漁港の位置付けなどが見通せないなどの理由だ。
 1994年には県水産公社が管理する地方卸売市場が糸満で開業したが、泊と糸満の水揚げ競争が激化し、魚価が3分の1程度に下がり、地方卸売市場は半年ほどで閉鎖に追い込まれた。再び競争が激化するのではという漁業者の懸念も解消されていない。
 県は那覇にある泊を「消費地市場」と位置付け、競りなど一部機能を残しつつ観光客を呼び込めるよう再整備する方針を示している。
 糸満新市場は県内での水産流通の拠点とする考えだ。糸満は県内で唯一、県外の漁船も利用できる「第3種漁港」であり、水揚げの質・量ともに充実が期待できる。周辺道路の整備も進んでおり、流通面での不安も解消された。
 こうした構想を丁寧に説明し、関係団体の合意を得るべきだ。
 一方で消費者の視点からも移転について考えたい。
 県の計画では糸満新市場は鳥害獣の侵入を防ぐ「高度衛生管理型施設」として建設される。
 農林水産省が実施した漁港の衛生管理に関するアンケート(09年)では「水産物を購入する際、衛生管理対策の実施状況に関する情報があれば参考にするか」という問いに対し「参考にする」と答えたのは「かなり」「ある程度」を足すと82・7%に上った。
 食の安心・安全に対する関心は高く「高度衛生管理型施設」の実現は消費者も望んでいることだ。老朽化した施設を使い続けることは市場そのものの価値を下げかねない。県、那覇市、各漁協の関係者は真摯(しんし)な議論を重ね、早急に結論を出してもらいたい。