<社説>防衛費過去最大 周辺国と軍事緊張高めるな


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政府は2017年度予算案の米軍再編関連経費を含む防衛費を過去最大の5兆1千億円程度に増やす方向で調整している。「北朝鮮や中国など不安定な国際情勢」への対応強化が名目だ。当初予算での増額は安倍政権が編成した13年度以降、5年連続となる。防衛費の増大は周辺諸国に脅威を与えることにならないか。その懸念が拭えない。

 海洋進出する中国を念頭に、沖縄周辺などの離島防衛を強化するほか、北朝鮮が発射を繰り返す弾道ミサイルの迎撃能力を高め、宇宙・サイバー空間での対応にも重点を置いているようだ。米軍再編関連経費も前年度より増額する。
 政府は13年に「国家安全保障戦略」と、今後10年程度の防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」を閣議決定した。尖閣諸島を巡る中国との対立強化を想定し、日本領域への脅威を排除する防衛力強化や離島奪還を担う部隊創設を明記している。防衛力を抑制的に整備する従来の方針を積極的な整備へと転換させた。
 防衛費の増大はこうした方針に沿っているようだ。しかし大綱の基本方針には「日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国にならない」とも記されている。どう考えても現状は軍事大国に進んでいるとしか思えない。
 今年3月、中国国防省の報道官が日本の防衛費が初めて5兆円を超えたことについて「アジアの近隣国と国際社会の警戒心を高めている」と懸念を示した。
 防衛費増加の名目は中国、北朝鮮への対抗意識が色濃いが、東アジアの緊張を高めることになる。外交的努力に注力するのが先決だ。
 17年度予算案は防衛費を増やすあおりを受けて、社会保障費の伸びの抑制、公共事業や教育、農業といった経費が圧迫されることになりそうだ。公共事業は横ばい前後にとどまる見込みで、農業予算も抑制気味の査定となる。
 与党は教育分野で17年度から一部の学生に返済不要の給付型奨学金を支給する方針だ。しかし安定財源が見つからず、財務省と文部科学省が他の経費を圧縮して財源を工面するかどうかの攻防を続けているという。
 防衛費を優先させ、国民の生活を後回しにすることは許されない。そして防衛費の増大で、周辺諸国との軍事的な緊張を高めてはならない。