<社説>米軍が麻薬対策訓練 許せぬ安保条約逸脱 汚染生む自由使用が根底に


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 米軍基地内で何をしても構わない。自由使用の誤った認識を米軍が持ち、実態化しているのではないか。日米安保条約の制約を日米両政府は確認する必要がある。

 米軍北部訓練場で米軍中尉が「米本国への麻薬密輸対策の訓練実施」を、東村議らの視察団に説明していた。
 日米安保条約6条は「日本の安全、極東の平和、安全に寄与するため米国軍は日本の施設、区域の使用を許される」としている。米国の麻薬密輸対策は日本、極東の安全に無関係であり、訓練が安保条約に反することは明白だ。

 訓練目的を承知せず

 赤嶺政賢衆院議員が「麻薬対策と日本の防衛にどんな関係があるか」と衆院安保委員会でただしたのに対し、防衛省の深山延暁地方協力局長は「米軍が北部訓練場で行う訓練のいちいちの目的は承知していない」と答弁した。
 米軍が基地内で何をし、訓練目的が何かを関知しない。「基地内は治外法権」と言わんばかりの無責任極まりない答弁だ。
 防衛省の担当局長がこれでは「米軍は基地内で何をしてもいい」と安保条約からの逸脱を容認するようなものだ。改めて政府の責任ある説明を求めたい。
 米軍中尉がためらいなく密輸対策訓練を口にしたのは「日本防衛の訓練」の意識がはなからなく、「基地内自由使用」の特権意識からだろう。
 日米両政府の長年の無責任ななれ合いが「日本防衛」を目的とする安保条約を空洞化させている。
 米軍キャンプ・ハンセンに2005年、米軍が建設を強行した都市型戦闘訓練施設はテロ市街戦を想定していた。米国がイラク戦争に突入し、中東や米本国のテロ対策を強化した時期であり、日本防衛など視野になかったはずだ。
 北部訓練場は米海兵隊のホームページに「米国防総省唯一のジャングル訓練施設」と記され「千人の隊員が30日間のジャングル環境下での訓練が可能」と紹介されている。
 日本防衛の訓練とは程遠い。ベトナム戦時下の1960年代に米軍が猛毒のダイオキシンを含む枯れ葉剤を散布したことを元米兵が証言し、米政府の公文書に記されている。住民を敵に見立てた戦闘訓練も実施された。
 訓練場内の福地ダムで88年、ボートやヘリの湖水訓練が強行され地元や県が反対し廃止させた。同ダムで07年、ペイント弾1500発が発見され県警、自衛隊が他ダムを含め弾薬類1万2千発以上を回収した。県民の命の「水がめ」が訓練で汚染されたのだ。
 
 短すぎる除去期間

 防衛省の担当局長が「いちいち承知していない」と国会で答弁するようでは改善は望めない。
 日米地位協定が米軍に基地の自由使用を認めていることが問題の根幹にある。自由使用を履き違えた「日本防衛」以外の米軍訓練を政府が容認して安保条約を空洞化させ、基地内汚染を際限なく放置している。それが実態だ。
 08年にはドイツ軍、イスラエル軍、オランダ軍と自衛隊の4カ国の連絡官がジャングル戦訓練を前提として北部訓練場を視察した。英国将校が在沖基地の訓練に参加したとの一部報道もある。自衛隊を含め多国籍の軍隊の訓練基地に変質しつつあるのではないか。
 ヘリパッド移設を条件とする北部訓練場の過半返還の返還式が22日に予定される。返還される基地内の汚染除去が大きな課題だ。
 沖縄防衛局は汚染除去期間を「1年~1年半」とするが短すぎる。米政府は枯れ葉剤の県内貯蔵、使用を「記録がない」と巧妙に否定し、日本政府は黙認する姿勢だ。米陸軍化学物質庁の報告書が、本土復帰前に枯れ葉剤ドラム缶2万5千個分の県内貯蔵を認めているにもかかわらずである。
 在沖米軍基地内の訓練、弾薬・薬剤使用の記録文書の開示を日米政府に求める。米軍が強制接収した北部訓練場は無条件で、汚染を徹底除去して返すのが筋だ。