<社説>沖縄税制期限短縮 「骨太方針」に反する 政治利用はやめるべきだ


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 今年6月に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太方針)は、沖縄振興に対する理念を次のように掲げている。

 「日本のフロントランナーとして経済再生の牽引(けんいん)役となるよう、引き続き、国家戦略として沖縄振興策を総合的積極的に推進する」
 自民党税制調査会は17年で期限の切れる沖縄関係税制に関し、一部を3年延長とし、酒税軽減など7項目を2年延長とした。県側が要望した拡充項目はいずれも反映されなかった。「牽引役」の沖縄にとっては、不満が残る内容での決着となった。

「使えない道具」放置

 自民党税調の決定は、そのまま与党税制大綱に盛り込まれる。事実上、政府の方針が決まったと言える。税調決定は「骨太方針」の理念に反し、実現できるか疑わしい。沖縄振興への政府の本気度も問われる。一定の評価ができるとすれば、沖縄振興にとって必要な特区や税優遇制度が少なくとも2~3年は存続することだ。だが一部で「使えない道具」が放置されたことは疑問だ。
 例えば観光地形成促進制度の対象施設にホテルを追加するよう求めた県側の要望は盛り込まれなかった。同制度は12年度に沖縄振興特別措置法で創設されたが、観光施設を新・増設した場合に費用の一部を法人税額から差し引く法人税特例の実績はゼロだ。
 観光産業の中心で、投資需要も高いホテルなど宿泊施設が対象に含まれないことが一因である。沖縄のリーディング産業である観光業の発展に向け、ホテルなどへの制度適用は不可欠である。県が掲げる観光客1千万人の目標達成に当たっても、制度面の支援がどうしても必要だ。
 進出企業がわずか14社、所得控除認定が5件しかない経済金融活性化特別地区(経金特区)も同じことが言える。
 同特区への進出を阻んでいるのは「当該区域内に本店または主たる事務所を有する」などの認定要件だ。
 規模の大きい金融業者が沖縄に拠点を移すことは現実的でない。地域金融機関なら地元を離れることにもなる。
 真剣に特区への企業進出を願うなら要件緩和が真っ先に要る。そうした改善をせずに結果を求めるのは筋違いである。
 注目された酒税軽減などの延長が2年となったことも理解し難い。今回は政治的判断事項から外され、全国の他の租税特別措置と同水準の適用期間になったからだとされる。だが与野党問わず挙がっているのは、2年後の知事選への圧力でないかという見方だ。

県の戦略問われる

 2年の延長期間は企業や業界団体が中長期計画を実践するには短過ぎる。これまで5年ごとだった延長期間を「2年に」と言及したのは菅義偉官房長官だ。さらに自民党本部は県酒類製造業連絡協議会に対して、職域支部設立を提案している。
 これらの発言、行動は県内の国政選挙や首長選で敗北した政府、自民党が党勢拡大に税制を利用しているとしか見えない。税制の政治利用は即刻やめるべきだ。
 一方で沖縄側にも課題は山積している。識者らは「県と政府のやりとりは単純延長から抜け切れていない。政府を説得できる経営戦略を見せないといけない」(宮田裕沖大、沖国大特別研究員)、「県の政策形成能力を高めるのが課題だ」(島袋純琉大教授)などの指摘がある。
 足りない部分を嘆くだけでなく、国際貨物ハブ事業を支える国際物流拠点産業集積地域制度や生産額が4千億円を突破した情報特区など企業立地や雇用に効果を挙げている制度はある。
 こうした実績に加え、それ以外の制度でも適用実績をどう積み上げていくか。県の戦略がさらに重要となる。受け取ったボールは今、沖縄側の手にある。どう活用し、沖縄の発展につなげるか、県の政策立案力も真価が問われる。