<社説>辺野古訴訟県敗訴 不当判決に屈しない 国策追従、司法の堕落だ


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 司法の国策追従は目を覆わんばかりだ。国の主張を丸飲みして正義に背をそむけ、環境保護行政をも揺るがす不当判決である。

 最高裁は翁長雄志知事の名護市辺野古埋め立て承認取り消し処分を違法とする判断を下した。行政法、憲法など多くの学者が誤りを指摘する福岡高裁那覇支部判決を無批判に踏襲する内容だ。
 政府が強行する辺野古新基地建設の埋め立て工事に司法がお墨付きを与えた。法治主義、地方自治を否定し、司法の公平性に背いて基地建設の国策を優先した。司法が担う国民の生命、人権、環境保護の役割を放棄したに等しい。

環境保全は不可能

 問題の核心は仲井真弘多前知事による辺野古埋め立て承認の当否である。
 公有水面埋立法は埋め立て承認に「適正合理的な国土利用」とともに「環境保全の十分な配慮」を義務付ける。高度成長期の乱開発、公害に歯止めをかける環境保護の理念が貫かれ、要件を満たさない埋め立て承認は「なす事を得ず」と厳格に禁じてさえいる。
 ジュゴンやサンゴなど貴重生物の宝庫の海域は埋め立てで消失する。「環境保全の十分な配慮」をなし得ないのは自明の理だ。
 前知事も県内部の検討を踏まえ「生活、自然環境の保全は不可能」と明言していたが豹変(ひょうへん)し、埋め立て承認に転じた。
 これに対し翁長知事は、環境や法律の専門家の第三者委員会が「承認は法的瑕疵(かし)がある」とした判断に基づき、前知事の埋め立て承認を取り消した。これが埋め立て承認と取り消しの経緯である。
 行政法の学者は埋立法の要件を極めて緩やかに解する高裁判決の同法違反を指摘する。また「普天間飛行場の危険性除去には辺野古新基地建設以外にない」などとする暴論を、行政の政策判断に踏み込む「司法権の逸脱」と批判し、国側主張を丸写しした「コピペ」との批判を浴びせている。
 最高裁判決は問題の多い高裁判決を全面踏襲した。「辺野古新基地の面積は米軍普天間飛行場の面積より縮小する」などとして新基地建設を妥当と判断した。県が主張した新たな基地負担増の指摘は一顧だにされていない。
 海域の環境保全策も「現段階で採り得る工法、保全措置が講じられている」として高裁判断を踏襲した。乱開発を防ぐ公有水面埋立法の理念からかけ離れた判断だ。
 普天間飛行場を辺野古に移設する妥当性、海域埋め立ての公有水面埋立法との整合性など慎重な審理が求められたが、最高裁は口頭弁論も開かずに県の主張を一蹴した。

最高裁が新基地に加担

 最高裁判決の根底にあるのは国策への追従姿勢だ。日米安保条約、不平等な地位協定に基づく沖縄への基地集中、負担強化の国策をただす姿勢のない司法の自殺行為、堕落と言うしかない。
 4月の米軍属女性暴行殺人事件、ヘリパッド建設工事再開、米軍ハリアー機墜落、オスプレイ墜落、そして辺野古訴訟県敗訴の最高裁判決と米軍基地問題、事件はなだれを打つがごときである。
 22日にはオスプレイ運用のヘリパッド完成を受けた米軍北部訓練場の過半返還式典が行われる。
 最高裁のお墨付きを得て、政府は早急に辺野古新基地の埋め立て工事を再開する構えだ。
 辺野古新基地の新たな基地負担に司法が加担した。最高裁の裁判官は過酷な沖縄の現実に正面から向き合ったと胸を張って言えるだろうか。基地負担の軽減を求める県民の願いを司法が踏みにじったのである。
 加速する基地建設の動きの最中にオスプレイが墜落した。国に司法が追従する基地負担強化に県民の怒りは燃え盛っている。
 翁長知事は辺野古訴訟敗訴が確定しても辺野古新基地建設を「あらゆる手段で阻止する」としている。事態は厳しくとも新基地建設に反対する民意は揺るがない。