<社説>北部訓練場過半返還 「負担軽減」にならない 県民の力で圧政はね返そう


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 誰のための返還なのか。米軍と安倍政権が仕組んだ欺瞞(ぎまん)に満ちた茶番と断じるほかない。

 米軍北部訓練場過半の返還を記念した式典で、菅義偉官房長官は「今回の返還は本土復帰後最大の返還であり、沖縄の米軍施設の約2割が返還され、沖縄の負担軽減に大きく寄与する」と強調した。
 在沖米軍基地機能強化による沖縄の負担増を、返還面積の広さで覆い隠し「負担軽減」と偽装することは断じて認められない。
 2016年12月22日を新たな「屈辱の日」に終わらせてはならない。真の負担軽減を勝ち取る「出発の日」として位置付けたい。

 新基地建設論理と矛盾

 菅氏は式典で、北部訓練場約4千ヘクタールの返還の起点を1996年の日米特別行動委員会(SACO)合意とした。沖縄戦までさかのぼるべきだ。
 県民は本土の捨て石にされた悲惨な沖縄戦に巻き込まれた揚げ句、土地を米軍に強制的に接収された。その事実を踏まえれば軽々に「負担軽減」とは言えないはずである。
 菅氏は「20年もの歳月を経てようやく返還を実現することができた」と述べた。米軍が「使用不可能」とする土地が返されるまで多くの年月を要したことを、まず謝罪すべきではなかったか。
 東村高江の集落を囲む六つのヘリパッド移設が北部訓練場過半返還の条件である。オスプレイは既に訓練を繰り返している。夜間も騒音が激化し、睡眠不足になった児童が学校を欠席する事態を招いたこともある。
 高江の状況を見れば、ヘリパッド移設を条件にした今回の返還がまやかしの「負担軽減」であることは明らかだ。
 政府は米軍普天間飛行場の危険除去のため、人口の少ない名護市辺野古移設を進めるとする。だが、北部訓練場ではそれと逆のことをやっている。山林にあるヘリパッドを集落近くに移すことは、辺野古新基地建設の論理と矛盾する。
 菅氏は「ヘリパッド移設で、これからもご迷惑をお掛けする」とし、住民に負担を強いることを認めた。これが安倍政権の言う「負担軽減」である。
 稲田朋美防衛相は式典で「オスプレイ事故を受け、集落上空を避けるなど、地元の生活環境への配慮が十分得られるように取り組む」と述べた。期待できない。
 防衛省は米軍に、民間地域でのオスプレイの危険なつり下げ訓練の中止を要請した。だが、米軍は訓練を強行した。日本政府に米軍の危険な訓練を止める力はない。

 知事欠席は当然だ

 空席が目立った返還式典とは対照的に、政党や市民団体でつくる「オール沖縄会議」主催のオスプレイ撤去を求める抗議集会は熱気であふれた。
 翁長雄志知事もうちなーぐちで決意を述べ、「皆で心を一つにして子や孫のため、どうしても負けてはならない。辺野古新基地ができなければ、オスプレイの配備も撤回できる。必ず造らせないように頑張ろう」と呼び掛けた。
 基地の過重な負担への不安が高まる中、知事が県民に粘り強い運動を求めたことに、県民の多くが勇気付けられたはずだ。
 菅氏は返還式典後、「基地の負担軽減を掲げる知事が出席できないのは極めて残念だ」と述べた。知事が式典を欠席した重みを受け止められないとあっては、沖縄基地負担軽減担当相の資格はない。
 知事が欠席したのは当然だ。それに不快感を示すこと自体おかしい。オスプレイ墜落事故直後に返還式典を強行することで、県民を愚弄(ぐろう)したことに気付くべきだ。
 沖縄が求めていることは子どもたちが健やかに育つ生活環境の保障である。今回の返還が安全な暮らしにつながることはない。抗議集会参加者だけではない。多くの県民がそのことを知っている。
 沖縄の未来を切り開くのは県民である。県民の力で圧政をはね返すことを改めて誓いたい。

英文へ→Editorial: Return of Northern Training Area land will not reduce burden; people’s power must resist oppression