<社説>高速実証炉建設決定 「福島の復興」忘れてないか


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 政府は日本原子力研究開発機構の高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の廃炉を正式決定した。事故が相次ぎ、運転実績がほとんどなく、めぼしい研究成果も上がっていない。当然である。

 政府は核燃料サイクル政策を維持し、もんじゅの後継として、より実用化に近い高速炉の実証炉の開発に着手することも決めた。理解できない。
 高速増殖炉の実用化には四つの段階がある。二段階目の原型炉もんじゅは、1994年の初臨界から22年で250日間運転しただけである。発電実績はわずか883時間、40%出力での運転しかできなかった。
 もんじゅの経験を踏まえれば、経済性を検証する三段階目の実証炉が成果を上げる保証はない。
 西川一誠福井県知事は「国として反省が十分示されていない」ことを問題視している。文部科学省はこの間、反省どころか、事故やトラブル対応の経験を含め、知的財産の蓄積と人材育成に一定の成果が得られたとするなど、失敗を取り繕うことに終始してきた。
 もんじゅを所管する松野博一文科相は廃炉決定に際し、一転して「期待された成果が出なかった」と述べた。だが、政策の誤りを認めてはいない。
 「高速増殖炉ありき」の不誠実な対応で、西川知事が不信感を募らせたことを政府は知るべきだ。
 日本の使用済み核燃料再処理は日米原子力協定の下、特例で認められている。国内には核兵器への転用可能なプルトニウムが約48トンもたまっており、国際社会からは「アジアで核物質の保有競争が激化する」との懸念が出ている。
 行き場のないプルトニウムを蓄積する一方の核燃料サイクル政策は見直すべきだ。
 もんじゅには1兆円以上の国費が投じられた。廃炉には最低でも3750億円がかかると政府は試算する。実証炉でも同じような壮大な無駄が生じる可能性は否定できない。
 もんじゅの廃炉は当然だが、福井県の反発を押し切り、一方的に廃炉を決めるやり方は乱暴過ぎる。福井県には多くの原発が立地し、廃炉に対する不安も大きい。政府は不安を払拭(ふっしょく)する施策を着実に実施する責任がある。
 加えて政府は「福島の復興」にも責任がある。それを忘れてないか。実証炉建設費は福島第1原発事故の被災地復興に充てるべきだ。