<社説>米軍属の範囲縮小 事件抑える抜本策に程遠い


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 成果は乏しいのに、年末に沖縄の基地問題が前進したかのように見せ掛ける印象操作が過ぎないか。米兵や軍属が引き起こす事件を減らすための抜本的改善策は、小手先の対応であってはならない。

 その核心は日米地位協定の改定にあるが、それは全く進展していない。本質的な基地負担軽減に程遠いことをまず確認しておきたい。
 岸田文雄外相が、米側に優先的裁判権が認められている在日米軍属の対象範囲の縮小に向け、日米地位協定の「補足協定」を締結することで実質合意した、と発表した。
 外相の説明によると、在日米軍基地などで働く軍属の範囲を縮小して明確化し、基地内で業務に就く軍属としての適格性についても定期的に検証する制度を設ける。
 法的拘束力が伴う「補足協定」を交わすことで、従来の日米地位協定の運用改善から一歩踏み出した対応を取ったとアピールしたい思惑があろう。
 外相は「国際約束であり、画期的だ」と自賛しているが、圧倒的多数の米兵は手つかずであり、事件事故の抑止につながる実効性はほとんどないのではないか。日米地位協定の改定にこぎ着けて初めて、外相は胸を張れるはずである。
 5月に容疑者が逮捕された元海兵隊員の軍属による女性暴行殺人事件を受け、日米両政府は対応を迫られた。翁長雄志知事は兵員の削減や日米地位協定の抜本改定などを強く求めた。だが、それは手つかずのままだ。
 そもそも軍属の範囲縮小は、米側が持ち出したものだ。事件事故を起こして沖縄の地域社会から反発を招く軍人・軍属の総数を減らしたいという米側の狙いが反映していることは間違いない。
 日米両政府は7月に、軍属を4分類し、対象範囲を狭めると共同発表した。基地内のインターネット関連会社に勤めていた女性暴行殺人事件の被告のような者は軍属から外れることになる。
 沖縄社会が求め続けているのは日米地位協定の条文を改定して、米軍特権をなくし、特権に守られている兵士らの犯罪行為を抑え込むことにある。軍属の範囲縮小は、ないよりあった方がましな程度の話である。
 基地外で罪を犯した米兵らが基地内に逃げた場合、日本側が起訴するまで原則的に身柄が引き渡されない特権こそ、日米地位協定改定によって是正されるべきだ。