<社説>辺野古工事再開 法治国家否定する暴挙だ 政府の虚勢に民意揺るがず


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 新基地建設に反対する県民の願いが年の瀬に踏みにじられた。年内工事再開の事実を突き付け、建設阻止を諦めさせる狙いが政府にあるならば大きな誤りだ。

 沖縄防衛局は米軍普天間飛行場返還に伴う名護市辺野古への新基地建設に向け、工事を約10カ月ぶりに再開した。キャンプ・シュワブ内に保管しているフロート(浮具)を海上に設置する作業を進めた。
 多くの県民はこの暴挙を政府の虚勢だと受け止めているはずだ。新基地建設ノーの強固な意思は、政府の強行策によって揺らぐことはない。むしろ県民の怒りの火に油を注ぐ結果を招くものだ。

 政権の専横が露骨に

 菅義偉官房長官との会談で翁長雄志知事は「事前協議を含め、話し合いを続けてほしい」と要請した。菅官房長官は「工事再開に向けて必要な準備を行っている。わが国は法治国家で、確定判決の趣旨に従って工事を進める」と拒否した。
 まさしく問答無用であり、およそ民主国家が取るべき態度ではない。ここに安倍政権の専横が露骨に表れている。翁長知事が「強硬的にならざるを得ない」と対抗措置を示唆したのも当然だ。
 菅官房長官は「法治国家」を説き、工事再開の根拠に最高裁判決を挙げた。しかし、沖縄を相手に法治国家を逸脱する行為を重ねてきたのは、ほかならぬ政府の方だ。
 海上保安官による過剰警備に象徴されるように、選挙などで幾度も示された新基地拒否の民意と、それに基づく建設反対運動を政府は力ずくで抑え付けた。沖縄の自己決定権を否定するものであり、法の下の平等、言論の自由を規定する憲法の精神にも背くものだ。
 そもそも翁長知事による名護市辺野古埋め立て承認取り消しを違法とする判断を下した最高裁判決も、新基地建設を強行する政府の主張を無批判に踏襲するものだ。
 弁論を開かず、環境破壊や基地負担増の可能性を十分に吟味しないまま「辺野古新基地の面積は普天間飛行場の面積より縮小する」として建設は妥当との結論を導いた。まさに国策追従判決だ。
 政府と最高裁が結託して新基地建設を推し進めているかのような態度は、まさしく法治国家の瓦解(がかい)を自ら表明するものだ。菅官房長官が、工事再開前の協議を求めた翁長知事の要請を拒否したのも、その一端でしかない。
 法治国家を破壊するような政権の屋台骨を支える官房長官が工事再開にあたって法治国家を掲げる姿は、もはや茶番だ。沖縄以外でも同じような理不尽な態度を取れるのか、菅氏に問いたい。

 早急に対抗措置整えよ

 工事再開は、翁長知事が最高裁判決を受け、埋め立て承認取り消し処分の取り消しを沖縄防衛局に通知したことに基づく。裁判の過程で翁長知事は「確定判決には従う」と明言していた。沖縄側は法治国家の精神を守ったと言える。
 判決に従うことで行政機関の信頼性を担保し、新基地建設阻止に向けた長期戦に備えるとの判断が働いた。取り消し処分をそのまま維持した場合、政府と司法がさらに強硬姿勢を取る恐れもあった。
 今回の県判断に対し、異論があるのも事実だ。「最高裁判決には執行力はない」という指摘である。「県民への裏切り行為だ」という批判もある。県内識者の間でも見解が分かれている。
 しかし、今回の取り消し通知によって新基地反対運動に足並みの乱れや分裂が生じることがあってはならない。
 そのためにも県は判断に至った経緯を丁寧に説明しながら、政府への対抗措置を早急に整える必要がある。県民の不安を払拭(ふっしょく)してほしい。
 県の対抗措置を無効化するため、政府は知事承認が必要となる埋め立て計画の設計概要の変更申請を避けることなどを検討している。それを実行すれば政府自ら無法状態を引き起こすことになる。断じて容認できない。