<社説>駐韓大使帰国 対抗より冷静な対応を

 政府が駐韓大使を一時帰国させると決めた。韓国・釜山の総領事館前に、民間団体が従軍慰安婦を象徴する新たな少女像を設置したことへの対抗策である。

 ソウルの日本大使館前にある少女像について、2015年末の日韓合意で韓国側が「適切に解決されるよう努力する」との文言が盛り込まれた。その進展が見られない中で釜山にも設置され、日本側が強硬姿勢に出た。安倍首相は8日放送のNHK番組で「韓国側にしっかりと誠意を示してもらわないといけない」と述べた。
 しかし、民間団体の行動に、日本政府が性急に対抗措置を取るのは、韓国側のさらなる反発を招き、むしろ日韓の関係悪化を招く。
 今回は駐韓大使らの帰国だけでなく、通貨危機の際にドルなどを融通し合う「通貨スワップ(交換)協定」の協議再開の中断や、ハイレベル経済協議の延期にも踏み込んだ。日韓の経済連携にも影を落とす措置だ。
 韓国は朴槿恵(パククネ)大統領が国会で弾劾訴追され、政府が機能不全に陥っている。日本側が強力な対抗措置を取っても、韓国政府が解決に向け主導できるとは思えない。逆に朴大統領を追い詰めた韓国の大衆運動を刺激して、反日の方向に向かうことも予想される。
 朴大統領の弾劾裁判の結果によっては今年前半にも大統領選が行われるが、日韓合意が大統領選の争点となり、候補者が対日強硬姿勢を取るようなことになれば、慰安婦問題の解決はさらに遠のく。
 そもそも15年末の日韓合意は慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決する」とした。日本的に言えば「水に流す」という意味だ。しかし韓国に「水に流す」という考え方はないし、慰安婦問題はまだ忘れられない記憶である。日本側は韓国の国民感情を理解し、「忘れないが許す」という方向になるよう粘り強く努力すべきだ。謝罪する側が「水に流せ」という姿勢で臨むため、合意に対する韓国社会の理解が深まらないのではないか。
 日本政府は事あるごとに「わが国を取り巻く安全保障環境は厳しい」と繰り返すが、今回の事態で互いの国民感情を悪化させ、合意そのものを揺るがせては、自ら安全保障環境を悪くすることになる。
 隣国関係を対立ではなく互恵へと進めるために、日本側が冷静に対応することが必要だ。