<社説>トヨタに圧力 悪しき介入許さぬ連帯を

 「米国第一」の保護主義に走るあまり、世界の公平な貿易環境を損なう危険性を認識していない。
 

 近く手にする絶大な権力をかさに着た、一企業の活動に対する度を超えた政治圧力は許されない。
 トランプ次期米大統領が、メキシコに新工場を建設中のトヨタ自動車に対し、「あり得ない。米国に工場を造るか、巨額の関税を払うかどちらかだ」と迫った。
 新工場建設の撤回を求め、ツイッターに投稿した。お決まりの一方的攻撃である。
 トランプ氏がメキシコへの生産移転のやり玉に挙げた、自動車大手フォード・モーターなど米企業が工場建設計画を撤回したばかりだ。その矛先を日本企業の雄であるトヨタにも向けた形である。
 大統領選と当選後の「トランプ流」を振り返ると、トランプ氏は物事の経緯や事実関係にほとんど目を向けず、激しい言葉を用いて独善的な批判を繰り出してきた。
 不当な圧力に屈せず、トヨタは経営判断を貫いてほしい。自由貿易を守り、国家権力による企業経営への悪しき介入を許さない連帯を、国を超えて広げねばならない。
 日本企業の北米、中南米戦略に影を落としかねない事態なのに、様子見する日本政府の姿勢はおかしい。菅義偉官房長官は「まだ就任前でコメントは控えたい」、世耕弘成経済産業相は「伝えるべきことがあれば、政権が発足してから検討したい」と述べただけだ。
 安倍晋三首相は大統領選挙からわずか9日後に米国へ飛んで行き、トランプ氏と会談し、「信頼できる指導者だ」と述べていた。その落差は大きい。「就任前だから」で済ますのでは国益に関わる重大事への危機感が乏しすぎる。
 トヨタの計画は米国内の工場をメキシコに移転せず、米国での生産台数や雇用が減ることはない。既に同社は米国内に10の製造拠点があり、約13万6千人を雇用し、米経済に貢献している。
 トランプ氏は米企業が国外投資に傾くことで雇用が奪われていると批判を重ねてきた。メキシコやカナダと結んだ北米自由貿易協定(NAFTA)に基づいて、米国内に製品が流入する構図を断ち切る思惑もあろう。
 関税を上げて輸入品を抑え込み、支持層である労働者などの歓心を買いたいにしても、国際貿易への浅薄な知識に基づく輸入品排除、自国第一主義に突き進むのは大統領の資質を欠き、危うすぎる。