<社説>米軍属範囲明確化 事件防止策になり得ない


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 日米両政府が日米地位協定の米軍属の適用範囲を明確化する「補足協定」を締結した。米軍属女性暴行殺人事件を受けたものだが、事件防止策には到底なり得ない。

 軍属の範囲縮小によって在日米軍基地から派生する犯罪で、米政府が責任を負うべき対象者を減らすことが目的ではないかとさえ疑われる。外務省関係者が「減らすのを目的にしていない」とするのは、目的隠しの可能性がある。
 軍属補足協定は軍属を8分類したにすぎない。犯罪抑止効果が期待できないとあっては、両政府が米軍属女性暴行殺人事件を重く受け止めているとは思えない。
 県民が求めていることは軍属の範囲の明確化ではなく、米軍人・軍属の犯罪根絶である。軍属補足協定はそれに一切応えていない。
 地位協定の改定に踏み込まないのは、今後も米軍人・軍属の犯罪を防ぐことは「不可能」と両政府が見ているからではないか。地位協定が米軍人・軍属犯罪の温床になっている状況を放置して恥じない両政府の姿勢は許されない。
 にもかかわらず岸田文雄外相は「これまでの運用改善とは一線を画する画期的なものだ」と軍属補足協定を誇った。地位協定の対象除外者でも基地で働けば、基地内で証拠隠滅を図ることは可能だ。一体どこが「画期的」なのか。
 菅義偉官房長官は「(軍属)補足協定の策定は環境補足協定に続いて2例目という画期的なものであると思う」と述べた。米軍普天間飛行場での県教育委員会の埋蔵文化財発掘調査を、米軍は環境補足協定を盾に断っていた。これを「画期的」と言えるだろうか。
 被害補償でも懸念がある。防衛省補償課は、元軍属が事件事故などを起こした場合の補償について「個別具体的な対応になると思うが、これまで通り(米政府に代わって)米軍が肩代わりすることになると思う」としている。
 しっかり補償するとなぜ断言しないのか。軍属に該当していた職種の非軍属が加害者の場合でも、被害を受けた県民が十分な補償を速やかに受けられないことがあってはならない。
 米軍人・軍属の犯罪捜査の壁となり、犯罪の温床にもなっている地位協定を抜本改定することで、一定の犯罪抑止効果は生まれる。県民の苦しみ、悲しみに終止符を打つ一歩として、日米両政府は改定を急ぐべきだ。