<社説>世界遺産に沖縄推薦 政府は姿勢改め登録実現を


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 政府は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」の世界自然遺産登録を目指し、正式推薦書を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に提出することを決めた。

 沖縄本島北部のやんばるの森には冬でも落葉しない照葉樹林が広がり、ヤンバルクイナやノグチゲラなどの固有種がすむ。西表島の大部分は亜熱帯原生林に覆われ、イリオモテヤマネコなど貴重種が生息する。
 いずれも日本が世界に誇る貴重な自然である。官民挙げて世界自然遺産登録を実現したい。
 登録が実現すれば、沖縄の自然の価値を国内外に発信できる。環境保全の重要性に対する理解を深めることを目的にしたエコツーリズムを充実させることで、沖縄観光の持続的発展も期待される。
 だが米軍北部訓練場の存在が登録の障害となる恐れがある。
 世界自然遺産指定を目指すやんばる国立公園と隣接する北部訓練場にも豊かな自然が残る。本来ならばその全面返還を求めるべきだが、政府は森を切り開き、ヘリパッドを建設した。
 ヘリパッド完成に伴い、米軍普天間飛行場所属のオスプレイなど米軍機の訓練が激化している。オスプレイの激しい風圧で木々の枝が折れるのが目撃されてもいる。
 森を覆う低周波音と強風が貴重な動植物に重大な影響を及ぼすことは容易に想像がつく。やんばる国立公園の生態系への悪影響も避けられない。
 今年夏には世界遺産委員会の諮問機関である国際自然保護連合(IUCN)の専門家が現地調査し、評価を下す。IUCNは過去にノグチゲラやヤンバルクイナなどの生存を確実にするための適切な対策を講じることを日本政府に勧告している。だが政府はそれを無視し、ヘリパッド建設でやんばるの森を危機にさらしている。
 自然保護を訴える一方で、自然を破壊する政府の矛盾した姿勢がマイナスに働くことを危惧せざるを得ない。専門家からも「国際基準では環境保全の観点から遺産登録には不適合と判断されかねない」との指摘がある。
 自らの矛盾する姿勢を改め、登録を実現するのは政府の責任だ。早急に北部訓練場を全面返還させ、将来的に世界自然遺産に組み込む方針を確立すべきだ。環境保全に強力に取り組む姿勢を打ち出すことも併せて求めたい。