<社説>前副知事口利き 教育行政の独立性に疑問 実態解明へ第三者が必要


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 安慶田光男前副知事が、教員採用試験で特定の受験者の合格への口利きや、教育庁幹部人事で特定の人物の登用を働き掛けた問題で、諸見里明前県教育長が口利きなどの実態を明かした。
 安慶田氏や翁長雄志知事、平敷昭人教育長は疑惑を否定していたが、諸見里氏の証言で全て覆された。平敷教育長は「働き掛けがあったと考えざるを得ない」と述べ、疑惑は事実だと結論付けたが、遅きに失した感がある。
 一連の問題を通して教育庁の対応のずさんさも浮き彫りとなった。当事者として、どこまで真相解明に努力したか疑問が残る。

ずさんな調査

 疑惑が報道によって指摘され、教育庁が行った18、19日の調査は、口利きがあったとされる2015年当時の元教育庁幹部5人に電話で聞き取るというだけのものだった。聞き取り内容の記録さえも残っていない。
 諸見里氏の証言では、調査した指導統括監から「この件については、依頼などなかったとしてよろしいですか」と隠蔽(いんぺい)を図るような問い掛けもあったという。
 当初から「臭い物にふた」という結論ありきの調査ではなかったのか。独立行政機関に対する不当な人事介入だという認識が教育庁側にあったのか、甚だ疑問だ。そうでなければ電話での聞き取りで済ませることはなかっただろう。諸見里氏の証言を得ていれば、安慶田氏だけでなく翁長知事の対応も異なったはずだ。
 教育庁の対応のまずさは平敷教育長の発言からも見て取れる。
 問題が発覚した当初、平敷教育長は「調査についても考えていない」(18日)と述べた。ところが19日には「(調査の)実施を検討したい」と一転した。県庁各部局で同様の事案がないか事実確認するとの翁長知事の意向を踏まえたとみられる。この間の平敷教育長の発言には独立行政機関の長としての責任感が見えない。
 平敷教育長は15年に施行された改正地方教育行政法に基づく新教育長だ。教育行政の責任者である教育委員長と事務方トップの教育長を統合した新教育長は、改正当初から首長の政治介入の余地が高まるなどの懸念があった。
 今回の事態は知事が介入したわけではないが、平敷教育長は知事部局での経歴が長く、知事から直接任命された。一連の言動からは任命権者である知事、さらには副知事に遠慮したのではないかという疑念を持たれても仕方ない。
 教育行政の監視役である教育委員ですら報道後に当初の「疑惑なし」とする報告を受けただけで、会議では質疑もなかった。事務方の報告を承認するだけでは行政委員制度も形骸化する。

安慶田氏喚問を

 諸見里氏が22日に教育庁へ提出した口利きの実態を明かす文書では、人事を断ったことで安慶田氏から「激しく恫喝(どうかつ)された」などと当時の状況も記されている。
 まさに権力の乱用だ。安慶田氏は公の場で自ら説明する以外ない。第三者を含めた調査委員会を設け、安慶田氏を喚問すべきだ。
 翁長知事も任命権者としての責任が問われる。翁長知事は会見で「大変重大と考えている。任命者としての責任を自覚している。安慶田氏に事実関係の調査への協力を呼び掛けたい」と語った。
 任命権者としての責任を果たすのであれば、安慶田氏に真実を語るよう説得する必要がある。既に辞職したからといって、知事の責任がなくなった訳ではない。
 これ以上、内部調査を重ねても、事態が進展するとは思えない。第三者を交えた調査委員会の設置を急がねばなるまい。
 二転三転する教育庁の説明と、かたくなに口利きを否定する安慶田氏の態度は県政、教育行政への信頼を完全に失墜させた。信頼を取り戻すには再発防止策と併せて事実を明らかにすることだ。第三者委員会設置と、安慶田氏の喚問こそが信頼回復への近道である。