大学の自治、学問の自由が政府や時の政権の意向でゆがめられることがあってはならない。
文部科学省から早稲田大学への天下り問題が発覚した。これを契機に、大学の自治を守る万全の方策を考える必要がある。
文科省の元高等教育局長が早大教授に再就職した際に、同省人事課が関与し、組織ぐるみで天下りをあっせんしていた。
元局長は大学を所管し学部の設置や補助金に関わった。早大では「文科省の各種事業の連絡調整役」を担当した。
文科省の大学政策担当者が大学に天下り、文科省とのパイプ役として采配を振るったのだ。文科省と大学の癒着にほかならない。
少子化に伴い大学経営が厳しさを増す中で、補助金を差配する文科省の官僚の再就職を大学に受け入れさせる。大学側の弱みにつけ込む天下りの構図である。
政府各省庁は国の政策設計と予算を握る。その強みを背景にした「天下りの構図」が各省庁に及んでいないか。疑念を拭えない。
政府が全省庁の調査に着手したのは当然だ。全省庁の関係先団体、企業への天下りを明らかにし、不健全な癒着を断ち切るべきだ。
天下りは特定の団体・企業への不公正な便宜供与や利権の癒着を生む。特に大学の場合は、学問の自由を脅かし、政府が思う通りの大学運営により国の将来を誤らせかねないことが危惧される。
防衛省は2015年度から大学などへの「安全保障技術研究」の助成を予算化し、初年度3億円、16年度6億円から安保関連法の施行後初編成となる17年度予算案では110億円と一気に大幅増額した。武器開発の軍事研究への大学の協力を強く促しているのである。
歩調を合せるように日本防衛装備工業会は、自民党政治資金団体への献金を増額している。
安倍政権下で武器輸出三原則が廃止され武器の輸出が可能となった中で、大学を巻き込む武器開発の「産官学共同」の動きが強まっている。
日本学術会議は大学、研究機関の軍事研究の是非を論議しているが、賛否が拮抗(きっこう)する危うい状況だ。
憲法23条は「学問の自由」を保障し、その制度的な保障として「大学の自治」が尊ばれている。
軍事研究のみならず憲法、教育、地方自治研究など大学の自治に基づく学問の自由を守るためにも、天下りは根絶せねばならない。