<社説>米TPP離脱 新たな通商戦略練り直せ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 トランプ米大統領は環太平洋連携協定(TPP)から「永久に離脱」し、2国間の貿易協定の締結を目指す大統領令に署名した。TPPの枠組みは完全に崩壊した。

 しかし、安倍晋三首相は「協定が持つ戦略的、経済的意義についても腰を据えて理解を求めていきたい」と国会答弁し、トランプ氏に翻意を促すと繰り返している。
 いつまでTPPにこだわるつもりか。トランプ氏は自国の利益を最優先する「米国第一」を宣言しており、日本に対し自由貿易協定(FTA)のような2国間の貿易交渉を迫る可能性が高い。TPP交渉でも争点になった自動車と農業分野を中心に、より厳しい譲歩を求めるだろう。安倍政権は直ちに通商戦略を練り直すべきだ。
 トランプ氏は日本の自動車市場について「日本車は米国に大量に入ってきているのに、日本が米国車の販売を困難にしているのなら公平ではない」と強調した。しかし、これは的外れの批判だ。
 日本から米国へ輸出する場合、自動車の関税は2・5%かかるが、米国から日本へ輸入する場合は既にゼロだ。税制上は米国市場の方が不公平である。
 日本自動車輸入組合によると、2016年の新車販売台数はフォードが2225台で、メルセデス・ベンツの6万7386台の30分の1にすぎない。新車登録台数は米国ブランドは5%未満で、95%は欧州車が占める。むしろ米国メ
ーカーの販売努力が問われている。
 一方、日本政府は農業についてTPP交渉で、輸入増を警戒する農業界の反対を押し切って、コメの輸入拡大や牛肉関税の大幅引き下げを容認した。2国間交渉となると、米国は農産物の輸出拡大に向け、TPP以上の市場開放を迫るとみられる。
 つまり、相手国に関税をちらつかせて自動車など自国産業を保護し、競争力のある分野については2国間の自由貿易交渉で輸出拡大を狙うものだ。「ディール(取引)」を全面に出すトランプ流とは、保護主義と自由貿易を都合良く使い分ける経済政策である。
 トランプ政権との2国間交渉となれば、再び日本市場で強引な輸入拡大を迫られる。それでも交渉のテーブルに着くのか。あるいは欧州や東アジアで別の枠組みを模索するのか。安倍政権がTPPにこだわっている時間はない。