<社説>トランプ大統領令 排除の論理で安定保てない


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 非人道的な政策を本気で実行するつもりだ。

 トランプ米大統領は全ての国からの難民受け入れを120日間、凍結するなどの大統領令に署名した。内戦下のシリアからの難民については無期限で停止する。中東やアフリカのイスラム教国7カ国からの一般市民の入国も90日間禁止する。
 イスラム過激派などのテロリストの国内流入を阻止するための措置だというが、極端すぎる。
 特定の宗教に対する偏見や差別を増幅させ、内戦や迫害から逃れようとする難民に打撃になる。自由や平等、寛容さといった建国以来の理念を否定するものだ。
 トランプ氏は国防総省での演説で「米国にイスラム過激派のテロリストはいらない。われわれは米国を支持し、米国民を深く愛する人だけを受け入れる」と述べた。
 2001年の米中枢同時テロの記憶が続く米国では、全てのテロは過激な思想を持つイスラム教徒が実行したとの印象が強い。トランプ氏も選挙中、イスラム教徒の移民や難民が米国の治安を悪化させていると敵視した発言を繰り返した。
 しかし、「イスラム教徒はテロリスト」と決めつけるような政策は非常に危険な論理のすり替えだ。イスラム教徒が多い国々の反発と中東情勢のさらなる不安定化を招くだけだ。ひいては米国の安全を脅かしかねない。
 すでに米国内では入国を拒否された人が計280人以上に上り、大きな混乱を引き起こしている。
 第2次大戦中、米国は日系人約12万人を「敵性外国人」として収容所に送り強制労働をさせ、財産を没収して迫害した。ウチナーンチュも例外ではなかった。米国社会はレーガン政権下の1988年、その歴史を反省し、謝罪したのではなかったか。
 米国は迫害や困窮、差別から逃れ「自由」を求めてやってきた人々がつくった国だ。かつてはメルティング・ポット(るつぼ)といい、最近は多様な民族・人種が交ざり合わずにそれぞれ共存するさまをたとえてサラダ・ボウルと呼ぶ。
 その多様性が今日の繁栄を築き上げてきた。世界がお手本としてきた自由と平等、人権尊重、全ての人に機会が与えられる米国の良き姿を変えるべきではない。