<社説>BPOの報道見解 自律し番組の質向上努めよ


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 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会がテレビの選挙報道について初めて意見書を出した。選挙報道に求められることは出演者数や露出時間などの「量的公平性」ではなく、事実と適切な評論による「質」だとした。

 異例の意見書を出した背景には「公平性」を巡る政治の攻勢から報道の自由を守り、放送局に奮起を促す狙いがあるとみられる。
 第2次安倍政権発足後、報道への圧力は露骨になってきた。自民党は2014年の衆院選で、在京テレビ局に文書を出し、出演者の発言回数や時間、街頭インタビューにまで「公平中立」を要請した。さらに高市早苗総務相は16年2月、政治的な公平性を欠くと判断した場合、電波停止を命じる可能性に言及した。同時期に、政権に批判的な発言をしたテレビキャスターの降板も相次いだ。
 15年6月には自民党若手議員による勉強会で国会議員から「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番だ」などの発言が出た。
 政権の強気の姿勢に、放送局側の萎縮はないだろうか。
 国外では「偽ニュース」が影響を及ぼしたと言われる米大統領選や、誤りを事実と言い張る「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」の現象が起きている。
 意見書を公表した検証委員会の川端和治委員長が「“事実もどき”が氾濫する時代に事実かどうかを判定できるのはメディアだ」と述べたのは重い指摘だ。
 検証委員会は東京ローカルの東京MXテレビが1月2日に放送した番組「ニュース女子」の審議も始めている。
 この番組は米軍北部訓練場のヘリパッド建設に反対する市民を「テロリスト」「過激派デモの武闘派集団」と決めつけた。ヘイトスピーチ(憎悪表現)や差別に反対する団体の共同代表の辛淑玉(シンスゴ)さんを名指しで批判した。内容には明らかな誤りや、人権侵害がある。
 BPOはNHKと民放連により設置された第三者機関で、あくまで放送業界が自律的に質の向上を図ることを促す組織だ。
 報道が公平か、倫理を逸脱していないかを判断するのは視聴者である。権力が報道に介入することは許されない。視聴者の声を基に放送局は自主的に質を向上させてほしい。